2017 Fiscal Year Research-status Report
Development of biomimetic fiber mimicking cotton fiber structure
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17K00796
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Research Institution | Kyoritsu Women's University |
Principal Investigator |
村瀬 浩貴 共立女子大学, 家政学部, 教授 (60525509)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 綿 / 合成繊維 / 紡糸 / 3Dプリンタ / バイオミメティック |
Outline of Annual Research Achievements |
綿は世界の全繊維生産量の約35%をしめ,最も多く使用されている天然繊維である。柔らかな肌触りと優れた吸湿性を示し,肌着から外衣まで幅広く利用されている。しかしながら,現状の綿の生産量は世界人口の増加のペースに追いついておらず,将来の供給不足が懸念されている。合成繊維で綿を代替するための多くの研究が行われてきたが,綿の良さを再現するには至っていない。その原因として,綿の持つ複雑な階層的高次構造を合成繊維では再現できていないことがあげられる。綿の細胞壁は,太さが約10nmのミクロフィブリルが互いに平行かつ綿繊維の長軸に対して約35°の傾角で螺旋を描くように配列している。さらに,綿の単繊維は中空かつ偏平な断面形状を持ち,一本あたり数十回から百数十回のねじれ構造を持っている。綿の優れた機能に対する階層構造の寄与を明らかにし,綿のミクロフィブリルの螺旋配向構造を再現する新しい紡糸方法を開発することが本研究の目的である。そのために着想した方法は, FDM(Fused Deposition Modeling)型3Dプリンタの樹脂吐出機構を利用してミクロフィブリル含有繊維を得る方法である。2017年度は,FDM型3Dプリンタを導入し,その操作の基本を修得しつつ,上記の基本コンセプトの確認実験を実施した。その結果,FDM型3Dプリンタを用いて,繊維を作製可能であること,さらに2種類の樹脂製繊維を組み合わせた複合繊維を作製可能であることが確認できた。現在,作製した繊維中にミクロフィブリル様の構造が実現しているか解析中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年度は,導入したFDM型3Dプリンタの立ち上げと,着想したアイディアを検証する実験を実施した。3Dプリンタの樹脂吐出機能を利用し,ポリ乳酸樹脂およびポリエステル樹脂を220℃で溶融し,直径0.5 mmのノズルより吐出させ,導入した小型巻き取り装置で繊維として巻き取ることに成功した。現状では,直径約50μmから300μmの繊維を得ることに成功している。さらに,この2種類の繊維を多数本束ねた後に,フッ化樹脂製の熱収縮チューブ中に充填し真空中で加熱して樹脂の溶融とチューブの収縮により2種類の樹脂を繊維形態を保ちながら相互に優着させることに成功した。また,3Dプリンタで利用できる直径2.8mmのフィラメント形状にすることにも成功した。そして,このポリ乳酸/ポリエステル複合フィラメントを実際に3Dプリンタで吐出して繊維化できることを確認した。現在,そのように作製した繊維中の構造を解析しているところであるが,ミクロフィブリル様構造が形成していることが期待できる。また,2017年度の計画として作製した綿模倣繊維だけでなく,綿そのものの構造解析を実施することを計画していた。綿に特徴的なねじれ構造は,綿繊維が綿の蒴果内部で成長の後,蒴果が割れて(開蒴)外気によって乾燥する際に発現するが,そのメカニズムは完全には明らかにされていない。そこで,綿を栽培し,開蒴前の蒴果を収穫し,乾燥前の綿繊維を得た。この未乾燥の綿繊維の構造解析を試みた。まずは,水中に保管状態の未乾燥綿の放射光小角X線散乱測定を実施し,乾燥後の綿とは全く異なる散乱曲線を得た。この散乱曲線の詳細な解析を現在実施中である。さらに,綿繊維が乾燥する過程での構造変化を放射光小角X線散乱測定でその場観察することを試みたが,これはまだ成功していない。サンプル作成の適正化を実施して次年度に再挑戦する。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度にFDM型3Dプリンタを用いて直径数十μmの繊維を作製することに成功し,さらにポリ乳酸とポリエステルを原料とした繊維を複合化してFDM型3Dプリンタ用のフィラメントを作製する技術を構築した。2018年度は,この技術を発展させて,綿のミクロフィブリル集合構造に似せた螺旋配向繊維の実現を引続き検討する。ミクロフィブリルの螺旋構造を実現できたら,さらなる綿の高次構造の模倣に取り組む。綿の持つやわらかな肌触りは,中空偏平な断面と多数のねじれ構造の寄与も大きいと考えている。この構造を再現するために,ノズルの工夫による中空化と偏平化を実施する。また,引き続き,詳細な構造解析を行う。綿は湿潤下で強度が増加する特異な性質を持つ。階層的高次構造と,綿の特異な湿潤時物性の関係を明らかにして,綿模倣合成繊維の構造に反映させてゆく。 2019年度は,綿の多数のねじれ構造の導入を検討する。さらに,これまでの技術を統合して,ナノレベルからマイクロメートルレベルまで階層的に綿の構造を模倣した繊維を得る。そして,綿の構造を再現した繊維が,実際に綿と同様の機能を発揮するか評価を行う。得られた繊維から糸を作製し,さらに織物や編物の手法で布帛を作製する。得られた布を用いて,基本物性の評価および,触感の評価を行う。
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Causes of Carryover |
綿繊維の階層的微細構造の再現のために,3Dプリンタ用の樹脂を3Dプリンタで作製することを検討したいと考えている。その計画の実現のために,現在保有しているFDM型3Dプリンタよりもさらに高精度の樹脂吐出が可能な3Dプリンタと,その制御のための高性能のワークステーションの導入が必要と考えている。現有装置の性能見極めと,より適切な機器の選定のために,導入を2018年度に実施する判断となった。
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Research Products
(1 results)