2018 Fiscal Year Research-status Report
咀嚼機能を考慮したソフトスチーム加工食材の調製~高齢者の豊かな食生活をめざして~
Project/Area Number |
17K00830
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Research Institution | Niigata University of Rehabilitation |
Principal Investigator |
山村 千絵 新潟リハビリテーション大学(大学院), リハビリテーション研究科, 教授 (30184708)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ソフトスチーム加工 / 鮭 / エビ / タケノコ / 高齢者 / 咀嚼 |
Outline of Annual Research Achievements |
1、試料の調製・物性検査: 前年度は、鮭,鱈,エビ,イカなどの魚介類や、わらび,ぜんまい,ふきなどの山菜を加工し、その中から適する食材を絞っていった。結果、魚介類については、物性及び試食の両方で好評価の得られた鮭,赤エビを平成30年度以降の研究対象とすることに決定していた。一方、山菜については、通年の研究対象とすることが難しいことから、舞茸,しいたけ,エリンギなどのキノコ類及び試作時に好評価の得られたタケノコについて平成30年度以降も検討していくこととしていた。平成30年度は、より物性の安定性を得るために加工条件を若干変更した。すなわち、加工温度については前年度より上げて85℃とし、加工時間については短すぎる、長すぎる条件を省き、30分、1時間、1時間半、2時間として試料を作成し物性を比較した。 2、試料の調製条件の決定: いずれの試料でも85℃1時間の調製条件が、物性・コストパフォーマンスの面ともに良好であった。 鮭,赤エビ,タケノコにおいては、UDF表示区分1~3に該当し軟らかく仕上がった。魚介類は、赤色が綺麗に仕上がったが、パック詰めの段階でアクがいっしょに封入された。タケノコは、えぐみを完全に除去することはできず、また、シュウ酸等の結晶が表面に付着する傾向にあった。これら見た目の改善については、今後の試料調製過程で工夫が必要と思われた。一方、キノコ類は味や旨味が濃縮されるものの、シャキシャキ感が増すため、高齢者向けの調整は難しく断念した。なお、魚介類やタケノコについては、再加熱しても、物性は保たれた。 3、官能検査、生理的検査: 被験者数が少なく定性的な結果しか得られていない。また、咀嚼能力測定にグルコセンサーを使用する予定にしていたが、予備実験の段階で、測定に使用するグミゼリーの弾力性が強いことが判明し、安全性等を考慮し高齢被験者への使用は見合わせた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況は、下記の理由でおおむね計画通りに進んでいると考える。 まず、平成29年度は研究実施計画に基づいて「試料の作成と物性検査」を実施した。すなわち、検査対象食材を選定し、各種温度、時間でソフトスチーム加工(委託作成)し、物性検査用試料を準備した。次に、準備した試料に、高齢者向けの食べやすい食品として必要な物性が備わっているかを調べるために、硬さ、付着性、凝集性等についてクリープメーターを用いて検査し、専用のソフトで解析を行った。物性検査の結果は、日本介護食品協議会や厚生労働省が定めた介護食の基準と照らし合わせながら、試料作成方法にフィードバックして試作改良を続けた。 続く平成30年度においては、前年度の物性検査の結果を補強すべく、加工条件について追加調製し、最終的に決定するまでに到達した。見た目の改善等の課題は残ったが、物性面からすれば、おおむね、高齢者向けの軟らかく食べやすい食材の調製を行うことができた。なお、実施する予定としていた、官能検査の被験者に対する咀嚼能力検査については、健常成人で予備実験を重ねたものの、使用するグミゼリーの弾力性が高いことから、咀嚼力の衰えた高齢者への使用は危険を伴う場合があることと判断し実施しないこととした。一方で、口腔内清掃状態を客観的に測定する検査については、侵襲性も少なく簡便に行うことができた。また、それに加え、咀嚼する口腔内の状況を可視化するために、口腔カメラを新たに購入し、官能検査の結果と合わせて関連付けるための準備を進めた。 以上のように、当初の研究計画はもちろん、研究の流れによって予定していなかった項目へと測定準備を拡大した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、平成31(令和元)年度で、本研究の実施予定年度が終了するため、完結に向けて計画通りに進めていくこととする。 平成31(令和元)年度前半においては、前年度までにデータ採取が不十分であった項目を重点的に実施する。そののち、年度後半を中心に、当初予定の今年度の計画を進めていく。すなわち、まず、決定した食材・条件で調製した加工食材を用いて、官能検査(付随して行う生理的検査)の被験者数を増やすべく、検査を行う。官能検査では、通常の調理方法で軟らかく調理した試料とソフトスチーム加工を行った試料とで、食べやすさや味等を比較する。合わせて、咬合力等の生理学的検査を実施し、その後、官能検査の結果と生理学的検査の結果の対応を試みる。次に、当初予定の計画通り、介護現場でのアンケート調査等を実施する。さらに、実用化へ向けての課題を抽出し解決する。 今後の課題は次のとおりである。1、食材の種類や加工条件の詳細については決定したものの、加工前の材料の背景(採取・収穫地等)や材料の大きさ・重さ等が異なったとしても測定値の変動幅が、できるだけ小さくなるように、より安定した加工処理を行っていくことが望まれる。2、軟らかく咀嚼しやすいという物性は得ることができたが、さらに食塊の凝集性や付着性等の観点から、嚥下しやすい食材の調製にまで進むことができたら、なお良い。3、食材調製時に、真空パック詰めするが、アクやえぐみの元となる物質が、加工後に混入されたままになることから、見た目や食味が落ちることがある。この状況の改善について工夫が必要である。
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Causes of Carryover |
交付金総額に圧縮がかかったため、平成29年度に導入を予定していた機器備品の購入ができなくなった。これに伴い、安価な代替品を購入したため、必要となる周辺の消耗品類も変更となった。このため平成29年度から30年度への繰越金が、今回の繰越金とほぼ同じ金額分、生じた。すなわち、今回生じた次年度使用額は、この余剰分がほぼそのまま引き継がれたことによる。 ただ、その額は少額であり、前倒し使用した費用もなく、当初の予定通り計画的に執行されていると考えられる。 平成31(令和元)年度の研究費の使用計画は、当初の予定通りとしており、平成29,30年度に得られた結果を基にして食材を調製し、その食材を用いて、官能検査、生理学的検査の例数を増やすとともに、介護現場でのアンケート調査等を実施していく。 食材の調製は、高根フロンティアクラブに整備されているソフトスチーム機を使用して行うため、その他の経費として計上してある委託費を充当する。なお、加工前の原材料類も同クラブより提供していただくため、試料用食品の費用もこれに含む。また、官能検査や生理学的検査など、人を対象とした実験を行うため、参加協力してくれた被験者には謝品を渡す。実験に必要な消毒薬類や、使い捨て食器類、その他消耗品類は、物品費により購入する。調査・研究旅費は、学会等含めた研究打ち合わせや資料収集のために使用する。
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