2018 Fiscal Year Research-status Report
調理と加工の視点からみた甘味および塩味と「脂肪味」の相互作用の多面的解明
Project/Area Number |
17K00842
|
Research Institution | Hiroshima Shudo University |
Principal Investigator |
岡本 洋子 広島修道大学, 健康科学部, 教授 (70270022)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 食嗜好と評価 / 脂肪味 / 塩味 / 甘味 / 官能評価 / 粘性値 / 閾値 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、脂肪味に関心が高まっており、甘味や塩味が脂肪味と共存する場合の関係性を解明することは興味ある課題である。平成30年度は、Time Intensity (以下、TI)の視点から、油脂添加量が増すとともに、みかけの粘度が上昇し、塩味強度が減少するのではないかという仮説を検証した。キサンタンガム濃度0.8%、塩化ナトリウム濃度1.0%、油脂濃度0.0、2.0、4.0、8.0%の計4種類のゾル試料を調製し、リファレンス溶液として塩化ナトリウム濃度1.6%溶液を準備した。官能評価はTI法により行い、TI曲線からTIパラメータを求めた。ゾル試料はShort Back Extrusion 法によって粘度を測定し、TIパラメータ値と粘度の相関関係を調べた。なお、統計処理にはIBM SPSS ver.25.0を用いた。実験評価者は、S大学に在籍する年齢20~60歳代の健康な男性2名および女性11名、計13名である。 ①Imax(Salty Intensity 塩味強度)は、油脂無添加試料、油脂添加3試料は、それぞれ、6.5,7.4,7.7,8.3が得られ、群間で有意差が認められた(F(3,100)=9.571,p<0.001)。②AUC(Area Under Curve TI曲線下面積)は、油脂無添加試料、油脂添加3試料は、それぞれ、367.0,484.4,492.4,564.2,が得られ、群間で有意差が認められた(F(3,100)=4.271,p<0.01)。③ずり速度20.0[1/s]における“みかけの粘度”μa[Pa・s]は、油脂無添加試料、油脂添加3試料、それぞれ、1.668,1.835,2.096,2.342が得られ、油脂量の増加にともない、粘度上昇がみられた。④ずり速度20.0[1/s]における4試料のμaとImaxおよびAUCの相関は、それぞれ、0.914、0.834が得られた。以上から、油脂量の増加にともない、塩味強度および粘度の上昇がみられ、粘度と塩味強度の間に高い相関がみられることを確認した。提示した仮説に反する結論を得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初、次の実験計画であった。「平成29年度には、脂肪味と甘味が共存する場合、甘味の感じ方と『混合ゾル試料』の力学的特性を調べる。平成30年度には、脂肪味と塩味が共存する場合、塩味の感じ方と『混合ゾル試料の力学的特性』を調べる。令和元年度には、日本人を対象に『脂肪味を感じる』最小濃度を調べ、脂肪味の特性の一端を明らかにする。」 平成29年度は、「キサンタンガムを増粘剤として添加した油脂と甘味・塩味溶液の混合試料」について、定量的記述分析による官能評価を行って、甘味および塩味強度を調べた。さらに「混合ゾル試料」についてはTV-22形粘度計による粘度を測定した。油脂添加量(2.0~8.0%,w/v)と甘味強度・塩味強度の相関性、油脂添加量と粘性値との関係性を明らかにした。食用油脂試料、甘味試料、塩味試料は、それぞれ、食用とうもろこし油、10.0%スクロース(w/v)、2.0 %塩化ナトリウムおよび2.0 %塩化カリウム(いずれもw/v)を用いた。甘味および塩味は、油脂味(油脂添加量)が増すとともに、粘度が上昇し、甘味強度や塩味強度が減少するのではないかという仮説を提示したが、仮説に反する結果が得られた。 平成30年度には、キサンタンガム濃度0.8%、塩化ナトリウム濃度1.0%、油脂濃度0.0、2.0、4.0、8.0%の計4種類のゾル試料を調製し、リファレンス溶液として塩化ナトリウム濃度1.6%溶液を準備した。TI法による官能評価を行って塩味強度を調べ、「混合ゾル試料」については、 干野らのShort Back Extrusion 法を用いた粘性値を測定し、TIパラメータ値と粘性値の相関関係を調べた。塩味は、油脂添加量が増すとともに、Short Back Extrusion 法による“みかけの粘度”が増加し、塩味強度が減少するのではないかという仮説を検証したところ、仮説を支持しない結果が得られた。いずれの年度においても、「混合ゾル試料」の微細構造の観察は実施していない。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29・30年度には、甘味および塩味は、油脂味(油脂添加量)が増すとともに、粘度が上昇し、甘味や塩味強度が減少するのではないかという仮説を検証した。いずれもゾル試料で実験を行った結果であり、仮説に反する結論を得た。 そこで、令和元年度は、増粘剤としてこれまで用いたキサンタンガムに、ローカストビーガムを添加してゲル試料を調製し、甘味や塩味は、油脂添加量の増加にともなって破断応力の上昇がみられ、甘味・塩味強度が減少するのではないかという仮説が支持されるかどうか調べる。油脂濃度2.0、4.0、8.0%の3種類、ゲル強度3種類、塩化ナトリウム濃度2.0%、塩化カリウム濃度2.0%、スクロース濃度10.0%の計27種類のゲルを試料とする(いずれもw/v)。油脂を含んでない試料をそれぞれ基準試料とした。官能評価(両極7点評点法)によって甘味・塩味強度の評価を行い、ゲル試料についてはクリープメータ(RE2-3305B:株式会社山電製)を用いて破断応力を測定する。 同年度には、食用油について「脂肪味を感じる」最小濃度を、約30名の実験参加者を対象に下降系列極限法によって調べ、閾値を明らかににする。キサンタンガム添加基準試料に0.1%食用油(出発濃度)を加え、油脂試料を調製する。出発濃度試料を、キサンタンガム添加基準試料を用いて倍数に希釈していき、計8サンプルを調製する。得られたデータから、プロビット法による解析を行って食用油の閾値を求める。 当初は、「油脂添加の甘味・塩味ゾル試料」を電子顕微鏡によって微細構造の観察を行う計画であったが、口腔内の甘味・塩味刺激の受容体への移動状況を予測するためには、嚥下筋活動測定等の方法の検討を行って、仮説が支持されなかった理由を考える。令和元年度には、これまでのデータの総括を行って、論文作成の準備をする。
|
Causes of Carryover |
平成29年度には、「キサンタンガムを増粘剤として添加した油脂と甘味・塩味溶液の混合試料」について、粘度計を用いて粘度を測定した。平成29年4月には、TVB粘度計、少量サンプルアダプター、高精度低温循環恒温槽の3種を購入する予定であったが、TVB粘度計本体は、所属大学の備品として具備されていた。業者による確認が行われ、そのTVB粘度計本体を使用することが可能であったため、少量サンプルアダプター、高精度低温循環恒温槽のみを購入した。平成30年度は、平成29年度助成金残額と平成30年度助成金を合計した助成金によって実験をすすめた。平成30年度には、合算した助成金を、試薬・試料代、実験器具類購入費、英文校閲、成果発表旅費、謝金等に充当したが、残額が生じた。 令和元年度は、所属大学所有のクリープメータに取り付ける、専用のパーソナルコンピュータ一式を購入し、ゲル試料の破断応力の測定を円滑にする。なお、現在、クリープメータに接続してあるパーソナルコンピュータ一式は10年以上経過した機器であり、フリーズをたびたび起こしている。本年度も、昨年度同様、試薬・試料代、実験器具類購入費、成果発表旅費、論文投稿や学会発表のための英文校閲に充てることとする。さらに、TI法や嚥下筋活動測定法などを、実験経過とその結果によっては実施するので、その場合に専門知識の提供や専門知識提供旅費、分析依頼に助成金を充当する。
|