2017 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of the regulation mechanism of fatty acid metabolism in the EFAD state and its physiological significance
Project/Area Number |
17K00848
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
市 育代 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 講師 (50403316)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 脂肪酸 / 必須脂肪酸 / 脂肪肝 / 欠乏 / リン脂質 |
Outline of Annual Research Achievements |
哺乳動物において食事から摂取しなければならない必須脂肪酸が欠乏すると、生体ではミード酸(C20:3n-9)といわれる高度不飽和脂肪酸(炭素数20以上、二重結合3つ以上)が産生される。しかし、必須脂肪酸欠乏時にミード酸のような脂肪酸が産生されるように代謝が変化する機構や、ミード酸が生体に及ぼす影響は不明である。 我々はこれまで、必須脂肪酸が欠乏すると、脂肪酸伸長酵素Elovl5の基質特異性が変化し、ミード酸産生が促進することを明らかにしている。そこで本研究では、その制御機構の解明を行った。今年度の研究成果より、通常の脂肪酸代謝から必須脂肪酸欠乏時にミード酸が産生されるように代謝が切り替わる機構として、GSK3依存的なElovl5のリン酸化が関与していることを明らかにした。ミード酸はこれまで、必須脂肪酸が欠乏すると自動的に産生されると考えられていたが、本研究の成果より、必須脂肪酸欠乏時に多価不飽和脂肪酸の減少を認識して代謝が切り替わる可能性が示された。 さらに、必須脂肪酸欠乏時のミード酸の生理作用を明らかにするため、ミード酸の産生遺伝子であるFads2の阻害剤を与えることで、ミード酸が減少するマウスを作製し評価した。その結果、必須脂肪酸欠乏時にミード酸が減少したマウスでは、肝臓の中性脂肪の蓄積が亢進し、肝臓から血中へのVLDL分泌が著しく減少することが分かった。必須脂肪酸欠乏マウスでは、ミード酸の増加により肝臓や血漿のリン脂質の高度不飽和脂肪酸量は通常マウスと同程度であったが、Fads2の阻害剤を与えたマウスでは高度不飽和脂肪酸の減少が顕著であった。これらの結果より、必須脂肪酸欠乏時に産生されるミード酸が肝臓からのVLDL分泌に重要である可能性を提示した(BBRC, 2018)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々はこれまで、必須脂肪酸が欠乏すると脂肪酸伸長酵素Elovl5がミード酸の前駆物質であるオレイン酸(C18:1n-9)に活性を持ち、ミード酸が産生される可能性を明らかにしている。さらに、必須脂肪酸欠乏時にはElovl5のリン酸化タンパク質が存在しているが、C20の多価不飽和脂肪酸(PUFA)の添加によって、リン酸化タンパク質が消失することを示している。そこで今年度は、必須脂肪酸欠乏時のElovl5の活性変化にリン酸化修飾が関与しているか、またその制御機構について検討を行った。その結果、Elovl5のリン酸化はGSK3の阻害剤によって完全に消失し、C20PUFA添加細胞でもGSK阻害剤存在下では、Elovl5はオレイン酸に対する活性を有することがわかった。したがって、必須脂肪酸欠乏時のミード酸産生には、GSK3依存的なElovl5のリン酸化が関与していることが示唆され、ミード酸産生に関わるリン酸化酵素を同定することができた。 次に、必須脂肪酸欠乏マウスにミード酸の産生酵素であるFads2の阻害剤を与え、ミード酸が減少するマウスを作製することで、必須脂肪酸欠乏時のミード酸の作用を調べた。すると、Fads2阻害剤を与えた必須脂肪酸欠乏マウスでは、肝臓の中性脂肪の蓄積が亢進していること、さらにVLDL分泌の顕著な減少がみられた。最近、高度不飽和脂肪酸を有する不飽和度の高いリン脂質は、膜の曲率を増加させ、VLDL粒子の放出を促すことが報告されている。今回、必須脂肪酸欠乏のFads2阻害マウスでは高度不飽和脂肪酸含有リン脂質が著しく低値であったことから、必須脂肪酸欠乏時のミード酸はVLDL分泌において重要である可能性が示唆された(BBRC, 2018)。これらの研究より、必須脂肪酸欠乏時のミード酸の生理作用を明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
①必須脂肪酸欠乏時のElovl5を介したミード酸の産生機構 これまでの研究結果より、必須脂肪酸欠乏ではC20PUFAの不足が引き金となってElovl5のリン酸化が消失し、オレイン酸が伸長されてミード酸が産生されることを示した。今後は、「非リン酸化変異体のElovl5の活性測定」を行うことでリン酸化部位を同定し、リン酸化によりElovl5の活性が制御されていることを明らかにする。 また、「C20PUFAがElovl5の活性変化を誘導する制御機構」についても検討を行う。膜貫通型タンパク質であるElovl5は、生体膜リン脂質の脂肪酸の種類を認識している可能性が考えられる。したがって、細胞内のどこに局在する脂肪酸が不足することでElovl5の活性が変化するかについても検討を行う。 ②必須脂肪酸欠乏時のミード酸の生理機能 これまで、ミード酸の産生遺伝子であるFads2の阻害剤を用いて実験を行ってきたが、今後、必須脂肪酸欠乏のFads2ノックアウトマウスを用いて、ミード酸の補充を行い、表現型の回復を詳細に調べることで、ミード酸の生理機能を明確にする。これまで、ミード酸が必須脂肪酸欠乏時のVLDL分泌において重要である可能性を示してきたが、今後、肝臓以外の臓器におけるミード酸の作用も明らかにする
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Causes of Carryover |
昨年度の研究成果が当初の計画より進み、研究費の次年度持ち越しがあったことから、次年度使用額が予定より多くなった。
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Research Products
(9 results)