2017 Fiscal Year Research-status Report
プロスタサイクリン欠損による腎血管障害発症機序の解明と改善・予防へのアプローチ
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17K00890
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Research Institution | Kanagawa Institute of Technology |
Principal Investigator |
横山 知永子 神奈川工科大学, 応用バイオ科学部, 教授 (90200914)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | プロスタサイクリン / PGI2 / 腎障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
プロスタサイクリン(プロスタグランジン(PG)I2)はn-6系必須多価不飽和脂肪酸のアラキドン酸からシクロオキシゲナーゼ経路によって産生され、心血管系の恒常性維持に重要な働きを担う生理活性脂質である。PGI2合成酵素遺伝子破壊マウスはPGI2を産生できず、加齢に伴い慢性腎臓病様の腎障害を発症するが、その発症機構は明らかではない。本研究は、PGI2欠乏が惹起する腎血管障害についてPGI2欠損マウスを用いて解析し、① 障害の発症機序に関わる情報伝達経路、② 腎および血管保護作用におけるPGI2とアディポネクチンとの関連性、③ n-3系多価不飽和脂肪酸による病態改善・予防効果を明らかにすることを目的とし、加齢や生活習慣病に伴う腎障害の改善と予防へのアプローチの基盤としたい。 本年度は、主に腎血管障害発症に関与するPGI2シグナル伝達経路の解明のため、IP受容体あるいはPPAR-deltaのアゴニストを20日齢から34日齢まで腹腔内投与(1回/日)したマウスを用いて解析を行った。腎臓からTotal RNAを調製し、定量的リアルタイムPCR(qPCR)で炎症関連遺伝子等の発現を定量した。その結果、PPAR-deltaのアゴニストを投与したマウスでは、PGI2合成酵素欠損マウスにおいて、腎臓での炎症惹起因子の発現レベルが有意に低下したが、IP受容体アゴニストの投与では、有意な変化は認められなかった。 一方、PGI2合成酵素欠損のヘテロ接合体では、ホモ接合体で認められる腎障害は組織学的には観察されないが、詳細な変化は検討していない。そこで、加齢マウスの腎臓における炎症性サイトカインのmRNA発現レベルを調べた結果、野生型と比較してヘテロ接合体で優位な発現上昇が観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マウスの繁殖飼育が予定より遅れており、n-3系多価不飽和脂肪酸による腎血管障害の病態改善および予防効果を調べる目的で、エイコサペンタエン酸(EPA)摂取がPGI2欠損マウスの腎血管障害に与える影響を検討するためにEPA投与実験がやや遅れている。一方で、平成30年度に開始を予定していた細胞レベルでの実験に関連した検討を本年度に開始しており、全体的には進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
プロスタサイクリン(PGI2)欠損マウスの腎血管障害の発症機序に関与するシグナル伝達経路について、加齢ヘテロ接合体マウスの腎臓で野生型マウスと比較して炎症関連因子の発現上昇が観察された。そこで、他の臓器組織を含めて引き続き解析を進め、腎臓にのみ認められる現象かを明らかにする。新たな解析対象もあるので、併せて解析を行い、結果の充実を図る。 エイコサペンタエン酸(EPA)摂取がPGI2欠損マウスの腎血管障害に与える影響については、繁殖飼育に時間がかかるため、30-31年度をかけて、腎血管障害発症・進展抑制効果の評価を行う予定である。 腎血管障害にEPAが与える効果を細胞レベルで検討するために、内皮障害モデル、線維化モデルの細胞実験系の確立し、確立した培養細胞実験系を用いて、EPAおよびEPAのオキシゲナーゼ代謝産物(粗抽出物:抗炎症作用を有する化合物を含む)の添加実験等により、細胞の炎症や線維化に対する影響を調べる。 確立した内皮障害モデルならびに線維化モデルの細胞実験系を用いて、PGI2の存在下あるいは非存在下に、調製したリコンビナントAPNを添加し、CRP、 IL-6、コラーゲンの産生やmRNA発現レベルを測定し、炎症や線維化に対する保護作用に変化が認められるかを検討する。 また、アディポネクチンなど血管保護作用が考えられている蛋白質の添加実験を確立した培養細胞系を用いて行い、炎症や線維化に対する保護作用に変化が認められるかを検討する。3T3-Ll細胞を脂肪細胞に分化誘導させ、APN発現レベルが上昇している状態で共培養を行い、検討する予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は、必要な物品の購入により予定していた物品費を超過したため旅費およびその他に予定していた経費を物品購入にあてたこと、ならびに動物実験の一部遅延により年度末に予定していた実験に用いる試薬の購入を控えたことから次年度使用額が生じた。次年度使用額ならびに翌年度分として請求した助成金は、主に試薬をはじめとする消耗品等、必要な物品の購入、旅費等に使用予定である。
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