2018 Fiscal Year Research-status Report
脳・精神系調節因子としての食と栄養ー葉酸とフェルラ酸の作用解析ー
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17K00897
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
矢部 武士 摂南大学, 薬学部, 教授 (40239835)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒木 良太 摂南大学, 薬学部, 講師 (90710682)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 葉酸 / うつ様症状 / エピジェネティクス / 海馬 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、葉酸欠乏が神経成熟異常を引き起こすメカニズムを明らかにするために、葉酸欠乏培地で分化させたマウス胎児脳由来神経幹細胞および葉酸欠乏マウスを用いて検討を行った。マウス胎児脳由来神経幹細胞を葉酸欠乏培地(葉酸含量0.66 mg/mL)または対照培地(葉酸含量2.66 mg/mL)で7日間接着培養することで分化させた後、real-time PCR法により神経成熟関連遺伝子群のmRNA発現量を解析した。その結果、葉酸欠乏により神経幹細胞の維持や神経細胞の成熟に関与する遺伝子群の発現減少および神経細胞への分化に関与する遺伝子群の発現増加が観察された。特に発現変動が顕著であったTbr2(発現増加)とNeuroD1(発現減少)に関しては、葉酸欠乏マウスの海馬歯状回においても同様の発現変動が見られており、S-アデノシルメチオニンの投与により対照群と同等レベルにまで回復した。DNAメチル化やヒストンH3リジン27トリメチル化は、転写開始点付近において遺伝子発現を抑制するエピゲノム修飾であることが知られている。そこで、培養神経幹細胞を用いて葉酸欠乏により発現が変動した神経成熟関連遺伝子群の転写開始点付近におけるDNAメチル化やヒストンH3リジン27トリメチル化を、methylated CpG island recovery assayおよびクロマチン免疫沈降法により解析した。その結果、葉酸欠乏により大部分の遺伝子において転写開始点付近のDNAメチル化およびヒストンH3リジン27トリメチル化が減少していた。 以上の結果から、転写開始点付近におけるエピゲノム修飾の減少による神経成熟関連遺伝子群の発現パターン変動が葉酸欠乏性の神経成熟異常における分子基盤の一端であるものと推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
葉酸が脳機能に及ぼす影響を明らかとする目的で、これまでに葉酸欠乏食を与えたマウスでうつ様行動が出現すること、またその動物の海馬において新生ニューロンの成熟異常やエピジェネティクス制御の変化が生ずることを明らかとした。さらに、葉酸欠乏が神経成熟異常を引き起こすメカニズムを詳細に検討するために、葉酸欠乏培地で分化させたマウス胎児脳由来神経幹細胞を用いた解析を行い、葉酸欠乏下で ①神経幹細胞の維持や神経細胞の成熟に関与する遺伝子群が発現減少すること、および神経細胞への分化に関与する遺伝子群が発現増加すること ②発現変化が見られた多くの遺伝子において転写開始点付近のDNAメチル化およびヒストンH3リジン27トリメチル化が減少すること などを明らかとした。このように、葉酸欠乏下におけるエピジェネティクス異常に関する検討については、概ね順調に進行しているものと評価できる。しかしながら、フェルラ酸の作用解析については進行が遅れていることもあり、2019年度の中心的検討課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの予備的検討から、ストレスホルモンのひとつであるグルココルチコイドを慢性的に投与した動物においてBDNFなどの神経栄養因子の発現が減少すること、またフェルラ酸の経口投与によりその減少が回復することを明らかとしている。本項では、フェルラ酸によるBDNF 発現増強作用の作用メ カニズムについて培養アストロサイトを用いて詳細に解析を行う。マウスの BDNFには9種類のスプライシングバリアントが存在するため、まずはフェルラ酸がいずれのスプライシングバリアントを増加させているかをreal-time PCR 法により解析し明らかとする。mRNA 発現量に変化が見られたスプライシングバリアントについては、プロモーター領域の DNA メチル化を解析し、フェルラ酸の作用におけるエピジェネティクスの関与を追究する。またオンジという植物性生薬由来のフェニルプロパノイド類にフェルラ酸の作用に類似した抗うつ様作用、神経栄養因子発現増強作用などを見いだしており、これらの化合物についてもエピジェネティクス制御機構に対する調節作用を有するかについて検討し、構造活性相関を明らかとしたい。
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Causes of Carryover |
免疫組織化学的解析に用いる抗体や細胞培養に用いる血清など高額の試薬について、前年度までに購入したものを利用したため請求額に比べ使用額が少なくなっ た。また2018年度は、細胞を用いた解析が中心であり、動物使用数がかなり少なめであった。今年度は、これらの試薬や実験動物の購入が必要となるため請求通りの使用額となることが見込まれる。
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Research Products
(5 results)