2019 Fiscal Year Research-status Report
実現可能な田畑土壌の除染 - セシウムをもってセシウムを制す -
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17K00917
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
矢永 誠人 静岡大学, 理学部, 准教授 (10246449)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 土壌除染 / 放射性セシウム / 原発事故 / イネ / カイワレダイコン |
Outline of Annual Research Achievements |
福島第一原発事故により放出された放射性物質、特に半減期の長いCs137による田畑の汚染が、今なお福島県産の農作物に風評被害を与えていることから、その除染を試みている。除染方法としては、これまでの研究実績で、土壌に安定同位体のCsを添加すると、土壌に吸着していた放射性Csが遊離することが確かめられていたので、これと農作物、特にイネによる除染を試みてきた。しかし、土壌に添加する安定同位体のCsの量を増やすと、土壌から遊離する放射性Csは増える傾向はあるものの、イネ自体に生育障害が認められるようになった。そこで、土壌の影響を受けず、また栽培周期の短いカイワレダイコンを用いて、Cs量と成長との関係、また、Csと他のアルカリ金属イオンとの競合関係を調べることとした。 カイワレダイコンを、純水、市販の培養液希釈液または培養液希釈液に種々の組み合わせでアルカリ金属(K、Rb、Cs)イオンを添加した溶液を用いて栽培した。生育の様子を観察した後に収穫し、葉および茎の含有元素量を機器中性子放射化分析法により求めた。 市販の培養液に含まれているKイオンと同量のCsイオンを添加した場合、葉に含まれるCs濃度は、成長するにつれて上昇し、葉へのCsの蓄積が認められた。Rbイオンとの混合溶液で育てた場合には、Cs濃度は2倍近くになり、さらに、添加するRbイオンの濃度を高めると葉中のCs濃度も増加していくことが確認され、RbがCsの吸収を促進することが確認された。また、培養液中と同量のKイオンを加え、さらにそれと同量のCsイオンを添加した場合の葉中のCs濃度は低下し、KイオンによるCsイオンの吸収抑制が認められた。他方、K、Rb及びCsイオンを同量ずつ添加した場合には、Csイオンのみを添加した場合と変わらず、Kイオンによる吸収抑制とRbイオンによる吸収促進の両者が働いたと思われる結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の遂行には、放射能測定が必要不可欠であるが、夏季の多湿及び豪雨による湿度の急激な上昇により、測定器内部に水分が入り込んだために異常が発生した。この対応のために、数週間にわたって測定を停止することが繰り返され、実験に遅延や一部を断念せざるをえない状況になった。しかしながら、昨年度から取り組み始めたカイワレダイコンを用いたCsイオンが植物の生育に与える影響に関する実験は順調に進んでおり、アルカリ金属イオンのみならず、植物の生育に必要な金属イオンの挙動の追跡からの本研究テーマに関する考察など、新たな展開が見られている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、イネに放射性セシウムが吸収された場合、可食部であるコメ以外の葉や茎に放射性セシウムが蓄積する傾向があることを利用し、放射性セシウムで汚染された土壌に安定同位体を添加することにより、放射性セシウムを土壌から遊離させ、それをイネに吸収させて除染する、すなわち、稲作を行いつつ田の除染をしようというものである。 これまでの実験で、安定同位体を土壌に添加すると土壌から放射性セシウムが遊離すること、その遊離された放射性セシウムがイネに吸収されることは確かめられている。しかしながら、その吸収量は、土壌全体の放射性セシウムの量に比べればわずかであり、可食部への放射性セシウムの移行を抑制しつつ、効率のよい除染方法を考える必要がある。その手法として、現在、ひこばえ、すなわち、稲刈り後の株から再生するイネの利用を考えている。この再生イネをカイワレダイコンの水耕栽培で模すことにより、再生前後の放射性セシウムの吸収量の変化について調べることを予定している。
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Causes of Carryover |
研究遂行に必要不可欠な放射線測定器が、夏季の多湿及び豪雨による湿度の急激な上昇等に伴うトラブルにより研究計画の一部を遅らせざるをえない状況になったこと並びに新たな研究展開が見られたため、研究期間を延長して確認実験を行った上で学会発表及び論文発表をすることとしたためである。物品費、旅費(学会参加費)、論文掲載にかかる費用に、ぞれぞれ、約5万円を充てる予定である。
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