2019 Fiscal Year Research-status Report
授業における子どもの内面過程の把握にもとづく授業改善・授業力向上システムの開発
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17K01137
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
渡邊 和志 大分大学, 教育学部, 准教授 (30793476)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉崎 静夫 日本女子大学, 人間社会学部, 研究員 (20116130)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 授業 / 授業研究 / 授業改善 / 教師教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、わが国で一般的に行われている「授業研究」では困難だった子どもの内面過程の把握にもとづく新たな「授業研究」の方法開発を目的としており、「授業研究1(1単位時間)」と「授業研究2(1年間)」から成っている。 「授業研究1」については、これまでは質問紙調査法による「再生刺激法」であったが、マークシートとスキャナーを使った「再生刺激法ver.2」を開発することにより、子どもからの内面過程(思考・情意)の報告データを短時間で処理し、その結果を事後の話合いに提供することができるようになった。これにより、学校現場の新たな授業研究の方法として活用可能になった。この研究成果は、平成30年度、令和元年度の理科教育研究会(ソニー科学教育研究会愛媛支部主催、ソニー教育財団後援他)でも取り入れ、子どもの内面過程だけでなく、授業者の授業の特徴や授業スタイルも明らかにすることができた。これらの成果は、大分大学教育学部研究紀要第41巻第1号にも掲載され、日本教育工学会2020年春季全国大会でも紙上発表した。また、「授業研究2」については、「教師の授業スタイルと子どもの内面」に関する質問紙の調査項目(50個の質問肢)をさらに45個に精選し、小・中学校の教師495名、小中学校の児童生徒1037名の結果を統計解析した。その結果、教師と児童生徒の「自己省察」に有意差のある項目が多く見られた。また、教職経験年数の違いによる「自己省察」は、0~9年の教師が他の教職経験年数の教師より有意に低い項目が見られた。一方、10年以上の教師同士の有意差は少なかった。また、授業改善を要する授業場面や内容も明らかになった。この研究内容は、大分大学教育学部研究紀要第41巻第2号にも掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究1については、1年目の方法開発段階で「再生刺激法ver.2」を開発し、2年目の検証段階で小学校の理科授業を対象に実施し、子どもの学習理解や学習意欲、教師と子どもとの認識のズレを明らかにすることができた。3年目の「研究成果を授業研究に生かす段階」では、学校現場における複数の研究会等で実施し、教師が授業のどこで、どの子どもに対してどのような指導助言をしなければならないかといった具体的な授業の改善点を明らかにすることができた。このことから、当初の研究目的を果たすことができている。 研究2については、教師の授業スタイルと子どもの学習スタイルを把握するための質問紙調査法を開発し、事前調査の報告内容等の検討により、さらに45項目に精選した。このことで教師の授業ルーチンや子どもの学習スタイルをより明確に把握することができるようになった。実際には、小中学校の教師、児童生徒の調査の実施と統計解析により、教師と児童生徒間の「自己省察」のズレ、教職経験年数の違いによるズレを明らかにすることができ、授業改善が必要な授業場面や内容もわかるようになった。このことは、今後の授業研究の方法や授業の改善の具体化に向けた活用が期待できる。以上から、本研究で開発した質問紙調査法は、当初の研究の目的を達するに至っている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、3年間の研究を通した「授業改善・授業力向上システム」のための方法開発であり、当初の研究の目的を達成するに至っている。本年度は、方法改善に向けた検討やこれまでの研究協力校以外の地域、子どもの実態が異なる学校での調査実施による検討を行いたい。なお、4年間の研究成果は、今後の授業研究、学校現場での授業改善に貢献できるように、研究成果をまとめることを目指している。 本年度の研究内容として、研究1については、ICT等の教育環境が整備されている学校で、タブレットを使った調査を実施し、成果と課題を検討したい。また、マークシートに代わる調査用紙を開発し、より低コストで実施容易な方法改善を目指したい。また、研究2については、開発した質問紙調査法を使って長期にわたる継続した調査研究を行い、成果と課題を明らかにしたい。そして、1年間の継続研究を通した授業改善への効果について検討したい。なお、研究1(1単位時間)及び研究2(1年間)を併用することによる授業改善の効果についても合わせて検討しようと考えている。なお、現在、新型コロナウイルス感染症対策による学校の休業が続き、再開の見通しは不確定の状況である。本研究は、学校現場の協力による継続的な実施が不可欠であり、状況によっては実施困難な場合も考えられる。その際は、これまでの研究のまとめと成果の還元に主眼を当てた研究に取り組みたい。
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Causes of Carryover |
昨年度、授業研究1については、「再生刺激法ver.2」として授業分析の方法の手続きが確立されていたことと、研究協力校の教員の支援も得られたことから、人件費・謝金は低く抑えられている。また、全国大会の学会発表を2名の研究協力者と共に行う予定であったが、学会の現地開催が急遽中止となり旅費も低く抑えられた。 本年度は、3年間の研究成果(学会での発表、論文、本年度の研究成果等)をまとめ、成果を広く紹介しようと考えている。また、これまでの研究成果を踏まえ、当初の計画をさらに発展させた研究を進める予定である。そのために研究資料の収集や研究分担者との打ち合わせ、研究物の作成のための費用(印刷費等)も必要になってくる。旅費、人件費、その他の費用を有効活用し、本研究をさらに進め、まとめたい。
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Research Products
(3 results)