2018 Fiscal Year Research-status Report
Responsible Research and Innovation: Japan-EU Comparative Study on Responsibility of Scientists
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17K01172
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤垣 裕子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50222261)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 科学者の社会的責任 / RRI / ELSI / 上流工程からの参加 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度に実施した欧州におけるRRI(責任ある研究とイノベーション)の調査および2018年度におこなった日本国内における科学者の社会的責任に関する文献調査をもとに、日本の科学者の社会的責任論と欧州RRI概念との異同を分析した。 まず、日本における古典的責任論と欧州のRRI概念との違いは、古典的な責任論(パグウォッシュ会議で議論された物理学者の社会的責任など、原子核物理学の最先端が世界平和を脅かす例、そしてマンハッタン計画に関係した科学者が倫理観をもっていたかの議論など)が主に個人の責任、そして科学者としての役割責任を問題にしているのに対し、RRIが集団責任(Collective Responsibility)、つまりシステムとしての責任を考え、役割責任というより一般的道義責任を対象としている点である。また、古典的責任論が「過去の行為における意図のあるなし」を問題にしているのに対し、RRIが「未来への備え」を問題にしている点である。 さらに、古典的責任論、とくに1980年代の科学者の社会的責任論の重苦しさが「システムの問題を個人の生き方で引き受けようとする」ところにあったのに対し、RRIは「システムの問題をシステムで引き受ける」、そしてシステムの変革によって乗り越えようとする。加えて古典的責任論では市民参加(そして生活者の作品性をもつ科学)は、体制化された通常科学の「対極」にあったのに対し、RRIは通常科学の側に市民参加をもちこもうとすることが示唆された。 これらの異同の分析を岩波の雑誌『科学』に連載し、まとめて書籍として出版した。また3月にエジンバラ大学で開催されたRRI関係のワークショップで以上の研究結果を発表し、次につながるコメントを得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度岩波『科学』の連載を書籍にすることができ、成果を目に見える形にすることができた。これによって、日本国内で「科学者の社会的責任論」にかかわってきた現場の研究者に対するさらなるインタビュー(書籍の内容についての反論や批判もふくむ)がしやすくなり、次のステップに入りやすくなった。
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Strategy for Future Research Activity |
日本の事例については、岩波書店から出版された本をもとにしたインタビュー(とくに物理学者に対するもの)を企画中である。 欧州RRIについては、RRI概念の萌芽を提唱したとされるオランダの研究者Von Shonbergに対するインタビューを企画中である。
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Causes of Carryover |
今年度は、昨年度の海外調査をもとに岩波の『科学』に連載を書き、それを書籍として出版することに時間を費やしたために次年度使用額が増加する結果となった。 今年度まとめた書籍は、次年度のインタビューを行ううえで出発点となる。したがって今年度の成果を次年度につなげるという意味では計画的に研究がすすんでいると考えている。
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