2018 Fiscal Year Research-status Report
Historical epidemiology of Tuberculosis in Japan
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17K01176
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Research Institution | Okinawa International University |
Principal Investigator |
市川 智生 沖縄国際大学, 総合文化学部, 准教授 (30508875)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 結核 / 軍隊胸膜炎 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画の目的は、戦前の日本で結核がどの程度蔓延していたのかを、死亡ではなく罹患情報によって疫学的に再現することにある。そのために、軍隊胸膜炎問題(肺結核)および各種結核研究機関の研究成果から罹患データを抽出し、地域差、男女比、年齢階層に着目している。戦後の結核実態調査の結果や、結核菌の分子進化研究の結果とも比較・検証することで、20世紀初頭から現代にいたる長期的な結核の疫学史を構築し、そのなかで結核の最蔓延期がいつであったのかの特定を目指している。 今年度は、当初の計画通り、戦前日本の結核感染情報の収集・整理および各研究機関で実施された結核研究情報の収集・整理を、長崎、東京、福岡、静岡の各地において継続した。収集することができた文献については、記述内容および統計情報に関する歴史学的検討を行った。また、本研究が対象とする戦前の結核との比較を想定して、日本軍の脚気症に関する専門家を招へいし、研究打ち合わせおよび資料調査を実施した。その結果、軍隊における特定の疾患を対象とした調査会の組織運営や軍医研究者の研究活動、大学や研究所との関係など、本研究を進める上で有益な知見を得ることができた。 これまでの研究実施により得られた知見のうち、青年層の成人男性に着目した結核罹患状況については、研究会での口頭発表を行った。また、結核の歴史との比較の目的から、戦前日本の海港検疫および陸軍による占領地でのコレラ対策についての論文を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に収集した『軍医団雑誌』(1900-1943年)および『軍胸』(1921-1929年)は、戦前日本の結核および軍隊胸膜炎を疫学的に研究する上で、もっとも重要な史料である。今年度は、両者の内容を詳細に検討し、近年の結核をめぐる歴史研究も踏まえ、科研課題「20世紀日本の長期療養型疾患の歴史」(代表:鈴木晃仁)主催の研究会において、「結核の歴史をめぐる近年の研究動向:軍隊胸膜炎問題にみる戦前日本の結核」を口頭発表した。同報告では、結核のみならず、ハンセン病、精神疾患などを対象とする研究者と有益な情報交換を行うことができた。 戦前に設置されていた結核研究機関について、昨年度に整理した組織に関する基礎的な情報を基に、各機関の図書および逐次刊行物の調査および収集を継続した。 今年度は、結核の歴史との比較の目的から、TOMO ICHIKAWA, "Japanese Occupation and Public Health in Qingdao:The Case of the Cholera Epidemic in 1919" Acta Historica Leopoldina(69), pp.235-242, 2018.および市川智生「ドイツから見た明治日本の感染症制御」『歴博』 (209) 11-14頁、2018年7月を執筆した。前者は、明治期日本の海港検疫を感染症制御の手法としてとらえ、従来指摘されてきたような外交上の問題という側面以上に、医療水準の際が検疫成功の決め手になっていたことを論じた。後者は、第一次世界大戦後に日本が軍政を展開した青島で発生したコレラ流行をとりあげ、現地社会への介入が防疫の争点となっていたことを指摘した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、これまでに収集した『軍医団雑誌』および『軍胸』などから得られた戦前日本の結核罹患情報の整理および結核研究機関での文献資料の調査を継続する。その上で、戦後の事例と比較を行う。その材料としては、結核実態調査の報告書に掲載された各種統計情報、都道府県統計書に掲載された結核に関する情報を用いる計画である。 本研究により得られた戦前日本の結核罹患情報、結核研究機関の研究動向、戦後の事例とのすりあわせについては、日本医史学会や社会経済史学会などの医学史、社会経済史領域の学会で口頭報告を行い、それぞれの領域の研究者との議論を通して知見を深める予定である。また、日本公衆衛生学会や日本結核病学会などの医学領域の学会で研究発表も検討する。以上の口頭報告の結果を踏まえ、研究論文を執筆する予定である。
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