2018 Fiscal Year Research-status Report
「日本の魚類学の父」田中茂穂文書資料の分析による動物学黎明期の解読
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17K01190
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
川田 伸一郎 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究主幹 (30415608)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 科学史 / 動物学史 / 脊椎動物 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は前年度ファイリングを完了した資料のデジタル化を行い,書簡資料のデータ抽出を行った.デジタル化は接写台に取り付けたデジタルカメラを用い,資料に無反射ガラスをかぶせた状態で行った.資料は当初1000点を上回る程度と見積もられたが,総撮影数13303枚の画像を閲覧しながら順に番号を付したところ, 3861件の資料(書簡以外に領収書などといったものもわずかに含む)が整理された.これらの資料から抽出したデータは,投函(あるいは執筆)年月日,差出人の氏名と所属,同封物(報告書・論文原稿・イラスト等,釣り針も含まれていた)の有無である.投函年月日の特定は消印によったが,完全に年月日が判読できたものは3099件あり,最も古い1906年1月25日のものから1944年11月12日のものまであった.明治後期から昭和初期に彼の周辺で起こった出来事を記録する重要な資料であると評価できる.差出人が判読不明な人物も含めると3228人からの書簡が含まれていることがわかった.うち最も多く含まれていたのは台湾総督府殖産局の青木赳雄(58通)で,山口県立萩中学校の田中市郎(55通)がこれに次ぐ.黒田長禮(39通),吉永虎馬(28通),David S. Jordan(27通),Oswald Weigel(24通),青木熊吉(24通),金子一狼(23通),辛川正部(22通),上田尚(21通),田代清友(21通),松井佳一(20通),猫山常蔵(18通),辻本満丸(17通),蒲原稔治(15通),鳥羽源蔵(15通),中村正雄(14通),牧野富太郎(14通),山階芳麿(13通),濱田照久(12通)といったところが上位20名となった.田中は魚類学者として著名であるが,哺乳類・鳥類・植物などの学者との交流が盛んにおこなわれており,また青木熊吉のような一採集人とも親しくしていたことがうかがえる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題を構想した段階では,受け入れた資料に含まれる書簡の数は1000件強と見積もられていた.ところが2017年度に資料のクリーニング及びファイリングを終える段階で,見積もりを大幅に上回る件数が含まれていると判断された.2018年度は大きな後れを取り戻すべく,整理補助者を増員してデジタル化及びデータ抽出を行ったが,総資料数は予定していた3番程度であることわかり,資料の内容の吟味がようやく始まろうとするところで,年度末を迎えることとなった.本来は国内外の出張調査を行い,書簡の内容を吟味するところまで進める予定であったが,円滑に進められなかったために繰越金を多く生じることとなった. また,2018年度は2019年3月から6月に研究代表者の所属機関で予定されていた特別展「大哺乳類展2―みんなの生き残り作戦」の準備が大詰めとなる中,予定外の展示計画の遅れを生じたことも理由として挙げられる.
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Strategy for Future Research Activity |
研究に遅れが生じている状況ではあるが,8割程度の書簡については投函年月日,差出人とその所属といった情報に加え,どのような要件であるかといった内容も把握できている.資料が多かった点はより多くの情報源が得られたととらえることもできる.2019年度は手紙を送った人物がどのような関係であったのかを中心に調査を進めていく予定である.送り主の中には萩市博物館の創設の元となった田中市郎や,植物学者として著名な牧野富太郎といった人物も含まれており,これらの人物の資料を保有する記念館・博物館などにも追加訪問して,情報を収集したいと考えている.また,上位20名に含まれていた黒田長禮は鳥類・哺乳類学者として著名な人物だが,たびたび田中に手紙を送るなどして助言を求めていたことが資料から伺える.青木熊吉は,東京大学附属三崎臨海実験所の採集人として活躍した人物である.東京大学の研究者がこのような一雇の人物と深い交流があった点は,田中の人柄を評価する点でも重要と思われる.こうした異分野の人物が盛んに交流した点は,分野の細分化が乏しかった戦前の動物学の一つの特徴とも捉えられるため,留意しつつ研究を進展させていきたい.
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Causes of Carryover |
2018年度は研究の進捗に遅れが生じ,資料のデータ整理が完了するにとどまり,予定していた出張などを行うことができなかった.そのため次年度使用額を生じることとなった.2019年度は現在整理が完了した資料を基に,国内外の出張調査を行う予定である.次年度使用額はそのための経費として使用する予定である.
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Research Products
(5 results)