2018 Fiscal Year Research-status Report
近代文化財保存復元を目的としたプラスチック材料確定方法科学の確立
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17K01199
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Research Institution | Tokyo Polytechnic University |
Principal Investigator |
山延 圭子 (高橋圭子) 東京工芸大学, 工学部, 教授 (00188004)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 映像フィルム / 酢酸セルロース / 核磁気共鳴スペクトル / 半経験的分子軌道計算 / ジメチルスルホキシド / 定量劣化分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
近代文化財の材料診断の第1段階として、映像フィルム、なかでも保存と復元が求められているアセチルセルロース(AC)フィルムの核磁気共鳴(NMR)スペクトルによる劣化定量診断を検討してきた。平成29年度は劣化度にかかわらずフィルムを可溶化する溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)を発見したが定量分析に至らず、他の溶媒探査や固体NMR法による検討を重ねた。 平成30年度は新たにアセチル-βグルコース重合度10、 および100のアセチルセルロースをモデル物質とし、 逐次アセチル置換基数に対応するグルコース基由来、 アセチル基由来プロトンの理論個数を算出、平均置換度DSとの相関検量線を作成したところ、重合度100のセルロースモデル物質の相関曲線でも置換度検量線として用いることが出来る事が判明した。 さらに測定条件を検討し、非フィルム試料全アセチルセルロース(TAC)、部分アセチルセルロース(AC)のNMRスペクトル検討により被験フィルム3 mgをDMSO-d6に溶解させ、 60℃にて測定を行い、グルコース基由来シグナル範囲(5.6から2.8 ppm)とアセチル基由来シグナル範囲(2.2から1.7 ppm)の積分比を検量線にてDSを算出すると平均アセチル化度が算出でき、 劣化早期診断が出来る事が判明した。 この方法は実際の映像フィルムの分析に応用できた。 現段階では入手映像フィルムが限られているため、一般性にはさらなる検討が必要であるが、 予備乾燥後、映像フィルムのパーフォレーション (送り穴) 1つ分で、劣化度(アセチル基置換度)およびフィルム可塑剤が同時に定性定量可能であることが判明した。 NMRによるビネガーシンドロームの定量的診断法を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近代文化財の材料診断の第1段階として、映像フィルム、なかでも保存と復元が求められているアセチルセルロース(AC)フィルムの核磁気共鳴(NMR)スペクトルによる劣化定量診断を検討してきた。この劣化はビネガーシンドロームとして知られているが、目視で明らかになる、すなわちフィルムが映像不能となってからでないと、劣化が判断できない。平成29年度までにフィルムを可溶化する溶媒、DMSO、DMFを発見した。平成30年度はNMR測定条件の検討と適切な検量線の作成をした。 非フィルム試料TAC, ACのNMRスペクトル検討により被験フィルム3 mgをDMSO-d6に溶解させ、 60℃で、グルコース基由来シグナル範囲(5.6から2.8 ppm)とアセチル基由来シグナル範囲(2.2から1.7 ppm)を確定し、シグナルの明確化も達成した。積分比を検量線にて平均アセチル化度が算出でき、 劣化早期診断が出来る事が判明した。 現段階では入手映像フィルムが限られているため、一般性にはさらなる検討が必要であるが、 予備乾燥後、映像フィルムのパーフォレーション (送り穴) 1つ分で、劣化度(アセチル基置換度)およびフィルム可塑剤が同時に定性定量可能であることが判明した。 NMRによるビネガーシンドロームの定量的診断法を確立し、映像フィルムの材質特定と劣化診断は達成した。
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Strategy for Future Research Activity |
劣化フィルム支持層の主成分アセチルセルロースの定量的切断酢酸基の算出と支持層添加可塑剤の同定法は達成のめどがついた。フィルムにより複数の可塑剤が同定され、安定性と支持層可塑剤との相関について検討できる。申請者保有のフィルムでは製造者等に偏りがあり一般性に欠けるので、多方面の保存フィルムで本方法を展開する。画像保持層であるゼラチンや画像発色団構造由来シグナル情報の端緒も得られているので総合的分析と安定性保存条件の差異を科学的に証明へと展開する。 他ベース(保存フィルムとして導入されたPET(ポリエチレンテレフタレート)基盤フィルム)も加水分解の可能性があるので、分析に着手する。そして総合的に近代化学合成物を用いた文化財の材質確定分析と劣化診断さらには、保存復元法の科学的根拠に基づく提案へと展開する。 金属、セラミックも始まりは先端技術製品であった。プラスチックも同様である。現代では化学合成製品は均一性や製品情報の明示が常識であるが、当初は技術者の微妙な作成法や配合法がプラスチック製品の性能や調度品としての価値を大きく左右していたと思われる。劣化診断、復元をすることを目的としてこの研究がある。不均一プラスチック複合材料の一つであるフィルムについて得られた平成29年度、30年度の結果をふまえ、フィルムの材質同定技法を他のプラスチック近代文化財に拡張する。フィルムより非破壊的手法が求められるので、表面分析法等、NMR法以外の機器分析法との相関性を検討する。最終的に復元、修理のためのデータとして提供できるようにする。さらに、分野を超えて情報を共有し、文化財科学の進展を図るため、ワークショップあるいはシンポジウムの開催も計画している。
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Causes of Carryover |
わずか3mgの試料でNMRによりDMSO-d6溶媒を用い、高温で測定するとビネガーシンドロームを定量的に診断でき、可塑剤の化合物の種類や添加量まで同定できる方法を確立した。 しかし、論文執筆がおくれ、年度をまたぎ投稿となる可能性があり、論文掲載料(Scientific Reportに2報を予定)を確保するため、2019年度分として529,155円を繰り越した。また、当該方法を一般化するため、国内出張費としても使用予定であり、現在投稿中であるが、6月掲載予定のオープンアクセス論文掲載後、シンポジウム・ワークショップ開催予定である。
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Research Products
(1 results)