2018 Fiscal Year Research-status Report
反射スペクトルの多変量解析に基づく顔料および染料の非破壊同定法の開発
Project/Area Number |
17K01201
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Research Institution | Kibi International University |
Principal Investigator |
大下 浩司 吉備国際大学, 外国語学部, 准教授 (40412241)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 色材同定 / 反射スペクトル / 非破壊測定 / 多変量解析 / 顔料 / 染料 |
Outline of Annual Research Achievements |
絵画や染織品に彩色された色材の科学調査では、蛍光X線スペクトル分析法により顔料、三次元蛍光スペクトル分析法により染料を同定することがしばしばである。絵画や染織品に使用された色材は未知であることが多く、顔料のみ、染料のみ、あるいは顔料と染料が使われることもある。このためこれら2つの分析に使用する装置を用意し、1つの測定点に対し2つの方法で順次測定する必要がある。このようなことから、色材の同定には、装置導入のための多額な費用がかかり、一連の分析には時間もかかる。本研究は、これらの課題を解決するために、紫外線・可視光線・赤外線の光に対する顔料および染料の色材の反射スペクトルを非破壊測定する装置を構築し、本装置を用いて測定した反射スペクトルを多変量解析することによって、絵画および染織品に使用された色材の非破壊同定法を開発しようとしている。 2018度には、2017年度に構築した装置を用いて色材の反射スペクトルを測定しデータを蓄積するために、油絵具・アクリル絵具・水彩絵具の標準試料を調製し、天然染料の標準試料も準備した。多変量解析に基づく同定を行なうためには、標準試料の反射スペクトルを精度・確度・再現性良く測定しなければならない。このため標準試料の調製法を検討した。そして、本装置を用いた反射スペクトルの測定法についても検討した。当初考案していた冶具を用いて光ファイバー先端部を固定する方法は、測定点および測定点から光ファイバー先端部の間隔を正確に調整できるため、標準試料の非破壊測定には適している。しかし、絵画や染織品に彩色された色材を測定する際には、非破壊かつ非接触の方法が望ましい。このことから非接触測定法についても検討した。さらには、研究成果の波及を見据え、安価な汎用機器を用いた反射スペクトルの簡易推定法の開発にも着想し検討を進め、この可能性も見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年度は、前年度に構築した装置を用いて色材の反射スペクトルを非破壊測定する方法の検討に取りかかった。そして、絵画や染織品に使用された色材の反射スペクトルを非破壊かつ非接触で測定する方法にも着想したため、この方法についても検討を始めた。色材の標準試料には油絵具・アクリル絵具・水彩絵具の各種絵具と天然染料を用いた。絵具は単一顔料からなるものを用い、紫外線・可視光線・赤外線の光に対する反射スペクトルから、各顔料の反射・吸収・透過等の光応答特性を明らかにしようとした。標準試料の反射スペクトル測定は、試料に対する接触は測定に影響のない程度で許容できるため、冶具を用いて光ファイバー先端部を固定し非破壊で行なった。しかし、絵画や染織品の反射スペクトル測定では、ベースとなる機材にアームを取り付けることによって光ファイバー先端部の向きと高さを調整可能にし、そのアームにクランプを取り付け光ファイバー先端部の位置を微調整し固定できるようにした。これによって正反射光および拡散反射光の測定にも対応できるようになり、絵画および染織品に彩色された色材の反射スペクトルを非破壊・非接触で測定できる。 さらには、本装置を用いて標準試料の反射スペクトルを測定し検討を進める過程で研究成果の波及を狙い、高価な専門の装置を用いず、デジタルカメラあるいはスキャナーのような安価で汎用な機器を用いた反射スペクトルの簡易推定法の開発についても着想し検討した。この結果、反射スペクトルの簡易推定にも可能性を見出した。 2018年度は、2017年度に構築した装置を用いて反射スペクトルを測定し多変量解析して単一顔料の非破壊同定までを計画していたが、進捗はやや遅れている。しかし、当初予定していなかった非破壊・非接触同定法の開発と反射スペクトルの簡易推定にも着手することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度には紫外線・可視光線・赤外線の光に対する顔料および染料の反射スペクトルを測定するための装置を構築し、2018年度にはこの装置を用いた非破壊・非接触による反射スペクトルの測定方法の検討に着手し、標準試料として用いる色材の調製も行なった。研究最終年度にあたる2019年度には、2018年度までに構築・検討した装置および測定法によって、紫外線・可視光線・赤外線の光に対する各種色材の反射スペクトルを測定して標準データを蓄積し、これを多変量解析して色材の種類を同定する方法を確立しようとしている。 具体的には、各種色材の反射スペクトルの測定条件を詳細に検討する。例えば、種類や状態の異なる色材の反射スペクトルを、紫外線・可視光線・赤外線の広範な波長域に渡り精度・確度・再現性良く測定するために、測定点と光ファイバー先端部の間隔、測定点に対する光の照射角度と照射強度、測定点が反射した光の受光方法、光ファイバー先端部の冶具あるいはクランプを用いた固定方法などの各種測定条件を詳細に検討する。そして、本装置は広範囲な波長域の光を一度に測定するため分光検出器2台を備えているが、多変量解析に支障をきたさないように、これら2台の分光検出器から得られた反射スペクトルを結合する方法、多変量解析に使用する反射スペクトルの波長域、多変量解析の方法やこのほか諸条件の検討も行なう。さらには、当初予定していなかった反射スペクトルの簡易推定法についてもその可能性を見出すことができたため、多変量解析への応用を見据えて検討する。
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