2018 Fiscal Year Research-status Report
X線CTを核としたアイヌ民族資料の保存修復に関する研究
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17K01204
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Research Institution | Hokkaido Museum |
Principal Investigator |
杉山 智昭 北海道博物館, 研究部, 学芸員 (90446310)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今津 節生 奈良大学, 文学部, 教授 (50250379)
鳥越 俊行 独立行政法人国立文化財機構奈良国立博物館, その他部局等, 室長 (80416560)
赤田 昌倫 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部博物館科学課, 客員研究員 (90573501)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 保存科学 / アイヌ民族資料 / X線CT |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き、多様な素材からなるアイヌ民族生活関連資料の内部構造情報の把握し、情報の体系化を行うため、漆器などの資料に加え、祭祀用の矢筒や太刀、小刀についてもX線CTスキャナを用いた非破壊調査を実施した。その結果、当該資料群の適切な保存修復を行う上で重要となる基本的な素材の使い方や製作技法に関する情報を獲得・蓄積することができた。また、内部構造情報のデータベース化、および比較調査を進めていく中で得られた三次元情報の一部からは、当該資料の製作年代や製作地域に関わる情報を新たに抽出可能であることが示唆された。調査資料のコンディションについて三次元情報を立体解析した結果、表面観察のみでは判定不可能であった部材の弛みや脱落、破損、修復痕など資料の現況情報を詳細に把握することが可能であった。さらに、虫害や腐朽による生物劣化については、内部空隙の確認と併せて、資料の密度分布を画像解析することによって、より詳細な状態情報のカルテ化を達成可能であることが示された。獲得情報のデータベース化を考慮したX線CTスキャナ各種撮影条件の絞り込みを行った結果、複合材料から構成される資料に関しても、一定の条件を見出すことができた。当該年度得られた資料の解析結果については、前年度の成果と併せて北海道博物館にて開催した第13回企画テーマ展「アイヌ民族の文化財を未来へつなぐ -博物館のはたす役割-」(開催期間:2019年2月8日~4月7日)において、実際の調査資料、パネル、3Dプリンタによって作成した実寸レプリカなどにより広く展示公開した。本展示会には会期中、多数の来場があり、X線CTによる三次元情報に基づく科学調査がアイヌ民族資料の長期的な保存修復に果たす役割について、社会的な理解を深める契機となった。なお、本研究成果の一部については文化財保存修復学会第40回大会(平成30年 高知市)において発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の目的を達成するために、当年度に計画していた「多様な素材からなるアイヌ民族生活関連資料の内部構造情報の把握」については、当初予定していた資料のX線CTスキャナによる撮影調査を完了することができた。取得した内部構造情報の解析・解釈については前年度に引き続き、研究分担者・協力者と協議しつつ資料グループの全体像の解明に向け取り組みを継続している。また、調査の結果得られた特徴的な内部構造情報については、表面的な模倣にとどまらず、実物に沿った形でのアイヌ民族資料の製作技術の解明・復元・継承作業の発展に大きく寄与することが期待される。そこで、当該年度からは、モデルケースとして、アイヌ伝統工芸作家に対し内部構造情報の設計図となる3Dプリンタ打ち出しレプリカを提供し、内部詳細まで忠実なアイヌ民族資料(小刀)の複製製作に取り掛かっている。「アイヌ民族の生活関連資料の劣化状態および修復部位・修復技法に関わる検討」に関しては、長期保存計画の策定に必須となる現況情報を得るため、資料内部の欠損や割れ、虫害・腐朽部位を調査するとともに、修復の範囲とその技法解明にむけた取り組みを継続中である。「獲得情報のデータベース(カルテ)化とカルテの共有・相互運用に関わる検討」については、木材製の漆器類や狩猟用矢筒、金属製の耳輪など、比較的均質な素材からなる資料に加え、祭祀用の矢筒や太刀など、複合素材から構成される資料についてもデータベース化を考慮した解像度、焦点距離、出力などX線CTスキャナ各種撮影条件の検討を行い、最適条件の確立について一定の目途を立てることができた。以上の結果から、X線CTスキャナを核とした非破壊調査により、アイヌ生活関連資料の長期的な保存管理・修復計画に資する客観的な劣化診断を実施し、情報のデータベース化と利用を目指す本研究の当年度における目標はおおむね達成されたものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究については今後とも、おおむね当初計画にしたがって推進していく予定である。 実際の作業計画としては「多様な素材からなるアイヌ民族生活関連資料の内部構造情報の把握」、「アイヌ民族の生活関連資料の劣化状態および修復部位・修復技法に関わる検討」、「獲得情報のデータベース(カルテ)化とカルテの共有・相互運用に関わる検討」に関して研究分担者、研究協力者と方向性を協議した上で引き続き調査を実施する。さらに最終年度においては、研究の全体的な取りまとめを行うとともに、展示会や学会発表などをとおして広く成果の公開・普及をはかる。
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Causes of Carryover |
当該年度は比較的早期の段階で良好な解析結果が得られ、調査旅費や機器消耗品の使用量が予定よりも節約された結果、次年度使用額が発生した。発生した次年度使用額については、調査研究費および機器消耗品等の購入にあてることとする。
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Research Products
(2 results)