2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K01206
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Research Institution | Gangoji Institute for Research of Cultural Property |
Principal Investigator |
山口 繁生 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (00752370)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 保存科学 / 文化財 / 出土木製品 / 出土木材 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は現生材を人工的に劣化させ、擬似的な出土木材を調製することを目的としている。出土遺物の保存科学的研究および保存処理の重要な問題点の一つは、適当な試料が存在しないことにある。保存科学的研究においては出土遺物のモデルとなりうる均一な試料群がないため、厳密な対照実験を行うことができない。また保存処理においては、予備実験が行えず限られた情報のみで処理方法を選択するため、最適な方法を選択することが困難な場合がある。これらの問題を解決するため、木質分解酵素を用いた擬似出土木材調製方法の開発を試みた。 これまでの研究において、フェントン試薬とセルロース分解酵素を併用した劣化処理により、現生材中のセルロース含有量を選択的に減少させながら含水率を上昇させられることを示してきた。しかし、これまでの方法では調製に長い時間が必要であり、大きさ20×20×10mm3(接線方向×半径方向×軸方向)の試料を用いた場合、200 - 400%含水率を上げるのに1ヶ月以上の時間を要した。このため、調製方法の改良が必要であった。そこで、劣化処理の効率を上げるため、前処理として水蒸気処理または熱処理を行うことを試みた。スギ、ヒノキ、ケヤキ、イチイガシの心材より切り出した大きさ20×20×20mm3(接線方向×半径方向×軸方向)の立方体を試験片とし、複数の温度条件で水蒸気処理、又は熱処理を行った試料と未処理の試料を用いて擬似出土木材の調製を行った。調製の各過程で含水率を測定し、その増加量を比較した。実験の結果、水蒸気処理試料と熱処理試料のどちらにおいても未処理試料より含水率増加量が大きかった。特に、セルロース分解酵素を用いた劣化処理における、水蒸気処理試料の含水率増加量が大きいことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は29年度より3年間を研究期間とし、1.水蒸気処理または熱処理を加えた現生材の劣化処理方法の検討、2.化学組成分析および物性測定による擬似出土木材と出土木材との比較、3.擬似出土木材を用いた保存処理および処理結果の評価を行う予定である。29年度の研究では、1.の劣化処理方法の検討を行った。研究の結果、水蒸気処理を加えた処理方法によって、比較的短期間で擬似出土木材を調製できることが明らかになった。これにより、30年度以降は2.擬似出土木材と出土木材との比較、3.擬似出土木材を用いた保存処理が行える段階となっており、おおむね計画通り研究が進んでいるため。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度の研究の結果、擬似出土木材の調製が可能となった。30年度以降の研究においては調製した擬似出土木材と出土木材との比較分析、擬似出土木材を用いた保存処理を行っていく。 出土木材より試料を切り出し出土木材試料とする。出土木材試料と同じ樹種の現生材から同様な木取りの試料を切り出し、劣化処理を行う。出土木材試料と同程度の含水率になるまで劣化処理を行い、擬似出土木材試料とする。出土木材試料、及び擬似出土木材試料について化学組成、強度、乾燥時の収縮率、顕微鏡観察による細胞壁の劣化状態の観察を行う。次に、出土木材試料および擬似出土木材試料に対して保存処理を実施した際の薬剤含浸量と収縮率、強度の比較を行い、疑似出土木材が出土木材をどの程度再現できているかを評価する。
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Causes of Carryover |
ほぼ全ての予算額を使用したが、一部の事務消耗品の購入が遅れた。翌年度に事務消耗品を購入する予定である。
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Research Products
(1 results)