2017 Fiscal Year Research-status Report
防災活動への活用のための災害遺産の保全・展示方法の研究:熊本地震を例に
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17K01210
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
池辺 伸一郎 熊本大学, くまもと水循環・減災研究教育センター, 客員教授 (10796311)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤見 俊夫 熊本大学, くまもと水循環・減災研究教育センター, 准教授 (40423024)
鳥井 真之 熊本大学, くまもと水循環・減災研究教育センター, 特任准教授 (40711908)
奥野 充 福岡大学, 理学部, 教授 (50309887)
鶴田 直之 福岡大学, 工学部, 教授 (60227478)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 遺構保存 / データベース / 災害査定 / まちづくり協議会 / 剥ぎ取り断面 / AR / プロジェクションマッピング / アーカイブ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では①災害遺産の抽出,②災害遺産の情報化,③保存方法の選定,④震災遺産の教材化,⑤防災コミュニケーションへ応用,⑥交渉過程の記録,⑦保存協議会の開催,までの過程をPDCAサイクルに基づいて体系的に取り組み,災害直後から災害遺産を保存し活用するために行うべき行動手順の作成を目的としている.29年度はこの1サイクル目を実行した. ①継続的な現地調査から,遺産となりうる箇所・物についてリストを作成し,各自治体へ情報提供を行った.さらに,まちづくり協議会など住民組織と連携し,生活に密着した遺産の抽出を行った.②風化による情報の遺失が懸念されることから,保存の可否にかかわらず高精細カメラや3Dカメラによりデジタル映像情報として遺産の保存・タグ付けを実施した.これら資料を管理するデータベースのため,ブロックチェーンを用いたデータの改ざん防止機能の確立を図った.③遺産保存については復旧・復興との兼ね合いから制約が多いことが改めて判明した(⑥と関連).④活断層調査による断層トレンチ断面のはぎ取りを実施し教材とした.剥ぎ取り標本は阿蘇火山博物館と旧長陽西部小学校にそれぞれ保管展示した.さらに標本やデータの閲覧を可能にするためのARとプロジェクションマッピングに向けたシステム開発を行った.⑤地域住民とのまち歩きで,断層と地震についての解説を行うと共に,住民の遺産に対する考え方や要望のヒアリングを行った.また,上述の断層剥ぎ取りではジオガイドとともに作業を行うことで,地震と災害との関係への理解深化と,ガイドを媒体とした市民への効率的な発信を図った.⑥交渉過程で,各ステークホルダーの位置付けが明確となった.特に遺構保存を前提としていない災害復旧事業の枠組みは,市町村の大きな足かせとなっていることが判明した.⑦各自治体で震災遺産関連の委員会組織が立ち上がったことから,これらに改善策を提案した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初回のPDCAサイクル中で判明した問題点のなかで顕著なものとして,構造物の保存には各災害復旧事業が大きく影響している点が浮かび上がった.災害復旧事業は遺産保存を考慮していないため,遺産保存のためには復旧対象から保存対象を切り離し災害査定を受ける必要があり,事務作業の煩雑化や別予算確保など市町村に大きな負担となっている.また,市町村では自然科学の専門家が不足しており遺産保存に従事する組織編成も保存に大きく影響を与えている.このような状況下では③保存方法の選定には,市町村を中心に県,国,大学などが肝要なことが明らかとなった.この例のように初年度の目的としていたPDCAサイクルの一巡を達成し,様々な知見を得ることが出来,研究は順調に推移している.
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Strategy for Future Research Activity |
初回サイクルの知見を踏まえ2サイクル目に臨む必要がある.今年度は以下の点に重点を置いて実施する. 1.1サイクル目で概要が判明した各ステークホルダーの位置づけから,効果的な遺産保存の仕組みを模索する. 2.ジオガイドなどインタープリターを活用した,効率的なな科学・防災教育の枠組みづくり 3.効果的な学習方法として,震災遺産に関するコンテンツ製作とそのARとプロジェクションマッピングの実地テスト 4.引き続き交渉過程の記録を行う. この研究においては,地域住民,市町村,県,国,阿蘇ジオパークなどのステークホルダーとの密接な協力関係を心掛けながら進める.
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Causes of Carryover |
成果の一部を海外学会で発表することを計画していたが,業務日程の都合から取りやめとなった.本年度実施する予定である.
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Research Products
(10 results)