2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K01227
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
森本 真紀 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (30377999)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | サンゴ骨格年輪 / 高時間分解能 / 台風 / 降水量 / 塩分 |
Outline of Annual Research Achievements |
熱帯低気圧が発達した台風は気象現象の中でも最も激しい擾乱の一つであり、もたらす自然災害は人間の生活に大きな影響を与えることから、台風の発生数やその規模と経路は重要な情報である。本研究では、過去の気候を高時間分解能で復元可能な地質試料であるサンゴ骨格年輪を用いた台風記録の復元法の開発と検証を目的としている。 研究対象地域は、1年あたりの台風接近が国内でも多くさらに接近時の勢力が強い沖縄県八重山諸島のサンゴ礁(石西礁湖)であり、石西礁湖は国内最大規模のサンゴ礁である。サンゴの種類も多種多様で、年輪記録復元に適したハマサンゴ属の大型群体も生息する。 平成30年度は、この石西礁湖において2回の現地調査をおこなった。阿部他(2017)の手法により、空中写真の画像解析から石西礁湖内のハマサンゴ属の現生群体の可能性がある物体の位置抽出を事前におこない、1回目の現地調査では約20地点において、現生ハマサンゴ群体が生息しているか、採取・分析に適した群体であるかどうかを調べた。このうち1群体を選び出し、2回目の調査において水中ボーリングによる骨格のコア試料の採取をおこなった。約230cmの長さのコア試料であり、本研究の分析に必要な少なくとも最近50年について明瞭な年輪を持つことが確認された。さらに、サンゴ試料の分析準備として昨年度からテスト実験により検討してきた、金属比(Sr/Ca比)のICP発光分光分析時の迅速多数測定を行うために、秤量過程を省略することが可能であることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在における台風などの豪雨と海洋環境の関係の解析については、観測記録から気象状況と降水量、水温、塩分の関係を調べ、同じ程度の降水量をもたらす台風と温帯低気圧を比較すると、どちらも海水温と塩分の低下が起こるが、台風の方がより長期間の影響を及ぼすことが示された。また、サンゴ骨格の同位体比と金属比の分析から水温と塩分の変化を読み取る際に必要な精度と時間分解能を明らかにすることができた。 高時間分解能分析による水温・塩分の季節内変化の復元のために、沖縄県八重山諸島の石西礁湖において現地調査をおこない、気象記録との対比をおこなう現生ハマサンゴ骨格のコア試料を水中ボーリングによって採取した。次に、サンゴ骨格の分析環境、すなわち高時間分解能分析のための試料削り出し方法、酸素・炭素同位体分析と金属比(Sr/Ca比, Mg/Ca比)などの分析環境を整え、さらに最適な標準試料の検討やより迅速に分析を進めるための条件変更をおこなった。現在、骨格コア試料を3mm厚の薄板に切断したものをX線写真によって年輪解析を進め、水温復元指標である金属比(Sr/Ca比, Mg/Ca比)測定と塩分復元指標である酸素同位体分析のための、高時間分解能試料の削り出しを進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
サンゴ骨格年輪の高時間分解能分析による水温・塩分の季節内変化の復元をおこなうため、X線による年輪(密度)バンド解析から年輪数と年輪幅を調べ、分析の解像度(時間分解能)を決定し、マイクロドリルにより試料を削り出す。削り出した試料の酸素同位体比を質量分析計で、金属濃度比(Sr/Ca比, Mg/Ca比)をICP発光分析計で測定する。測定は総合地球環境学研究所でおこなう。これらの結果から、石西礁湖における過去50年間の水温・塩分の季節変動を2週間以下の時間分解能で復元する。サンゴ骨格の酸素同位体比は形成時の水温と海水の酸素同位体比で決定され、金属濃度比(Sr/Ca比)は水温依存であるため、水温と海水の酸素同位体比変化が求まる。さらに、海水の酸素同位体比と高相関である塩分変化を推定できる 次に、石西礁湖(石垣島)における気象観測記録とサンゴ骨格年輪記録の対比から、台風・大雨の復元可能性を検討する。過去の台風や豪雨などの気象イベントとサンゴ年輪分析による水温・塩分復元データを比較する。比較からサンゴ骨格年輪に記録された気象イベントの規模と特徴を解析し、サンゴ年輪データの変化から気象イベントを読み取る検出条件を決定する。さらに、この検出条件を用いて、一部の年代のサンゴ年輪データから台風などのイベントを復元し、実際の現象と比較から検出条件の検証をおこない、復元の精度について検討する。外部機関における機器利用で同位体・金属分析をおこなうため希望日程・期間での分析が難しい場合などには、X線写真による年輪解析から年輪の年代を先に決定できることから、現在の気象解析から推定された台風などの豪雨のシグナルが予想される年を優先して分析することにより、研究の推進を図る。
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Causes of Carryover |
平成30年度に外部機関での機器利用(同位体・金属分析)をする計画であったが、同年度に野外調査によるサンゴ試料採取をおこなったため、年度内に分析をおこなうことができなかったことから、機器利用で生じる旅費や施設利用費を使用しなかったため次年度使用額が生じた。この外部機関での機器利用は平成31年度におこなう予定である。
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