2017 Fiscal Year Research-status Report
価格プロモーションのための動的消費者購買行動モデル:リアルオプション・アプローチ
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17K01242
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
鈴木 広人 北海道大学, 経済学研究院, 助教 (10434375)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
後藤 允 北海道大学, 経済学研究院, 准教授 (30434286)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | マーケティング / 消費者購買行動モデル / リアルオプション・アプローチ / 動的 |
Outline of Annual Research Achievements |
ネスティッド・ロジットモデルとリアルオプション・アプローチを融合した動的な消費者購買行動モデル(Suzuki, et al. (2008))では,消費者の意思決定をブランド選択,購買生起の2段階意思決定とし,購買生起モデルにおけるパラメータは家庭内在庫に応じた期間ごとに推定している.そのため推定するパラメータ数が膨大となることでデータ数やその煩雑性から推定結果が不安定となることが課題であった. この問題に対し,EMアルゴリズムを応用したパラメータ推定方法を開発し,推定結果の安定性を確認することができた.具体的には,購買を延期することで将来獲得可能な価値を考慮した動的な消費者行動モデルを構築するため,購買生起モデルにおいて購買を延期する価値を考慮しているが,その価値はリアルオプション・アプローチにより導出する.t期における購買を延期する価値は,t+1期以降の価格状態に依存した購買生起確率を用いて導出する必要がある.そこで購買を延期する価値を導出する際の購買生起確率を潜在変数として捉え,任意に与えた初期値を元に購買生起モデルのパラメータを推定する(Eステップ).次に,推定結果を元に購買を延期する価値を導出する際の購買生起確率を算出する(Mステップ).上記のステップを,尤度が収束するまで繰り返し実行することでパラメータ推定を行う.家庭内在庫に応じた期間ごとに推定を行わないことでパラメータ数を減少させ,安定的な推定結果を得られることが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
EMアルゴリズムを応用したパラメータ推定法を開発し,疑似購買履歴データを用いて推定結果の安定性を確認した.疑似購買履歴データは,パラメータを任意に定め,乱数を用いて発生させたものである.開発したパラメータ推定法では,初期値に依存せず,推定結果が一意定まることが確認され,安定的な推定結果を得られることが分かった. ただし,ID付POSデータの取得に時間を要し,実データを用いた実証を平成29年度に行うことができなかった.当初予定していたID付POSデータは提供元企業が提供を中止したことから,本研究に適したデータの提供元を探すことに時間を要したためである.しかし,米国よりデータを調達することから,今後研究に支障は無い.また,データ取得の遅れに伴い,対象商品カテゴリを変更した分析を進めることができなかった.Suzuki, et al. (2008)においては,対象商品をケチャップとすることで,必ずしも家庭在庫を意識した購買行動をとっていない可能性があることから,分析結果への影響が考えられる.そのため,買い置き可能かつ家庭内在庫を意識し,価格の安い時に購買する製品カテゴリである,トイレットペーパー等を対象とした分析を行う予定であった.データを入手次第,早急に取り組む予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度においては,まず実データを用いた実証を行う.対象商品としては,買い置き可能かつ家庭内在庫を意識し,価格の安い時に購買する製品カテゴリであるトイレットペーパー等とし,購買を延期する価値を考慮した購買行動を行っていること,平成29年度に開発したパラメータ推定法の安定性を実データにおいて示す. 次に,価格の相対評価を考慮したモデル構築と,その実証を行う.過去の研究により消費者は内的参照価格をもとに実売価格を相対評価することが明らかにされていることから,より現実的な消費者購買行動モデルを構築する.ただし,内的参照価格は過去の購買履歴に依存するのに対し,購買を延期するオプション価値は将来時点から後ろ向き帰納法で導出される.したがって,導出手順の異なるパラメータ推定法が必要となることから,Carla et al.(2012)を参考に,両変数を段階的に収束させるアルゴリズム構築を行う. 平成31年度においては,消費者の異質性を考慮したモデルへの拡張を行う.異質性の考慮は,リアルオプション・アプローチを用いた消費者購買行動モデルにおいて,パラメータ推定の安定性向上のために用いるEMアルゴリズムと親和性の高い潜在クラスモデルを適用する.ただし,商品カテゴリに対する購買生起確率,商品の選択確率に加え,消費者が各クラスターに所属する確率を同時に扱う必要があることから,その複雑性より莫大な計算時間を要することが予想される.そのため,池田(1998)を参考にEMアルゴリズムを再帰的に用いることで計算量の削減を行う.
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Causes of Carryover |
購入予定であったID付POSデータを購入することができなかったため,次年度使用額が発生した.当初予定していたID付POSデータを提供元企業が提供を中止したためであるが,米国よりデータを調達することから,今後研究に支障は無い.
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