2017 Fiscal Year Research-status Report
骨コラーゲンの新規精製法の確立と遺伝子発現量比較による骨関連細胞の機能解析
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17K01398
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
森本 康一 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (10319741)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | コラーゲン / 硬組織 / 軟組織 / LC-MS / 翻訳後修飾 / 軟骨細胞培養 / 骨芽細胞培養 |
Outline of Annual Research Achievements |
I型コラーゲンは真皮などの軟組織と骨などの硬組織の両方に含まれるが、同一遺伝子から転写翻訳される。このようにコラーゲンは組織構造が異なる場に豊富に存在することから組織の形成維持に関与していると考えられるが、その詳細は未だ明らかではない。そのメカニズムを明らかにするためには、硬組織のコラーゲンを回収してその分子構造や会合体形成などを調べ、真皮コラーゲンと比較しなければならない。さらに、組織特有のコラーゲンの翻訳後修飾を調べる必要がある。しかし残念ながら、硬組織の未変性コラーゲンの抽出法は確立していなかった。主な理由は、酸・熱抽出法では骨コラーゲンが変性してゼラチンとなり、また修飾基が脱離するためである。 一方、I型コラーゲンは基礎研究のみならず、治療材料、さらに再生医療などの応用研究においても注目されている生体材料である。真皮などから大量に安全に再現性よく回収する技術も開発されており、世界中で軟組織のコラーゲンが生体材料として汎用されている。特に真皮と腱由来コラーゲンは市販されており、容易に入手可能で、医療材料として承認されている製品もある。今後は、骨コラーゲンの抽出法が確立できれば、第3のコラーゲン材料として期待できる。 本研究では、骨組織からコラーゲンを抽出する技術基盤を確立してその物性を明らかにし、さらに組織特有のコラーゲンの翻訳後修飾などを検証することを目的としている。また、骨コラーゲンを細胞培養の足場として用いて、細胞の機能変化を調べることを計画している。 初年度は、最適な温度、pH、塩濃度などの条件を整えることを考慮し、独自の方法で硬骨からコラーゲンを抽出することを試みた。精製した骨コラーゲンは分子量、純度、線維形成速度などを測定することでその物性を調べた。また、LC-MSで翻訳後修飾を比較する系を確立するため、まず真皮と腱のコラーゲンを供して解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、ブタ脛骨を0.5M EDTAにて4℃で脱灰し、続いて当研究室で精製したタンパク質分解酵素を用いて可溶化することに成功し、その最適化を実施した。その結果、20℃で3日間反応させることで、骨の乾燥重量で60%以上の回収率でコラーゲンを抽出できた。計画にはなかったが、ブタの関節軟骨(硝子軟骨)からII型コラーゲンを抽出することにも成功した。 SDS-PAGEで調べた結果、骨コラーゲンは真皮コラーゲンを同様に2本のα1鎖と1本のα2鎖からなり、些少のβ鎖とγ鎖が含まれることが分かった。純度は90%以上であった。線維形成速度は真皮コラーゲンより少し早く、熱転移温度も数度高いことが示された。さらに生理的条件下で自己会合してゲル化することも明らかになった。つまり、骨コラーゲンの分子構造は真皮コラーゲンと相似であったが、線維形成速度と線維構造に僅かながら違いが認められた。 翻訳後修飾の解析を確立するため、真皮と腱のコラーゲンをLC-MSにて調べた結果、両者においてもプロリンの水酸化の位置と数量に違いを定量的に測定することができた。またリン酸化修飾もリン酸化したアミノ酸残基を特定し、真皮と腱での有意の差異を示すことができた。つまり、初年度に水酸化とリン酸化の翻訳後修飾の解析手法を確立した。さらに骨組織からコラーゲン以外の成分を部分的な天然状態で調製できる技術も副次的に開発した。 ウシの象牙質から象牙質コラーゲンを抽出することにも成功したが、象牙質コラーゲンの回収率は骨より低いことが示された。これは、象牙質に含まれるコラーゲン量が低いことが関係していると推察した。 以上のように、初年度の研究は計画以上に完遂することができた。 得られた成果の一部は、2017年の第35回日本骨代謝学会学術集会で口頭発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の計画目標は順調に達成しており、特に遅延した事象はなかった。よって次年度以降は計画通りに、1)骨コラーゲンの大量調製、2)LC-MSによる骨コラーゲンの翻訳後修飾の同定と定量解析、3)骨コラーゲン上での骨芽細胞・軟骨細胞の培養と機能変化の検証、を計画する。1)の「大量調製」では、脱灰方法をEDTA浸漬法と塩酸浸漬法を比較することで、時間の短縮と省力化を図ることにする。塩酸は混在する微生物の殺菌作用が期待できるので、得られる骨コラーゲンは安心して細胞培養に供することができる。また、反応温度を30℃まで上げること、骨基質を細かく粉砕すること、酵素濃度を増やすことでさらに反応時間を短縮できると考えられる。2)の「翻訳後修飾」では、すでにブタとウシの脛骨のコラーゲンをLC-MSにて測定したので、プロリンの水酸化修飾とリン酸化修飾、さらに真皮コラーゲンにない修飾を同定することを計画する。得られる結果を真皮と腱のコラーゲンと比較解析することで、組織特異的な翻訳後修飾を明らかにする。3)の「細胞培養実験」では、骨コラーゲンで培養する骨芽細胞と軟骨細胞が、他のコラーゲンを用いた系より機能が高く保持されているかを検証する。その際、骨由来のコラーゲン以外の既知成分(LC-MSで同定済み)を培地に添加することも試みる予定である。細胞機能の解析では、各培養条件でRNAを抽出してRT-qPCRにて遺伝子発現パターンの差異を調べる。 【今後の目標】すでに真皮と腱において翻訳後修飾の違いを見出しているので、骨を合わせて3つの異なる組織でのコラーゲンの差異を明確にし、骨コラーゲンを新規のバイオマテリアルとして再生医療への応用研究につなげたい。
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Research Products
(2 results)