2018 Fiscal Year Research-status Report
慢性疾患患者の筋機能低下に対する加温とアミノ酸栄養を併用した新たな予防・治療戦略
Project/Area Number |
17K01538
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Research Institution | Nihon Fukushi University |
Principal Investigator |
岩田 全広 日本福祉大学, 健康科学部, 准教授 (60448264)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
土田 和可子 日本福祉大学, 健康科学部, 助教 (90610014)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 悪液質 / カヘキシー / 骨格筋 / 萎縮 / 肥大 / 温熱刺激 / 分岐鎖アミノ酸 / 栄養素 |
Outline of Annual Research Achievements |
積極的な身体運動は,非感染性慢性疾患の悪液質に由来する骨格筋機能低下の治療や進行予防に有効であるが,臨床で遭遇する患者は,原疾患そのものの特異的な病態や二次的な廃用症候群のために運動を十分に実施できないことが多い。したがって,積極的な身体運動が行えない患者を対象にした場合においても,優れた運動効果をもたらすことができる,他の方法論の早期開発が求められている。そこで本研究課題では,熱という物理的刺激とアミノ酸栄養に対する筋細胞応答に着目し,骨格筋の加温と分岐鎖アミノ酸の投与を組み合わせた新しい治療介入が,悪液質により引き起こされる代謝異常とそれに伴う骨格筋萎縮の進行過程に及ぼす影響を検討する。さらに,その作用機序を解明することで,悪液質に由来する骨格筋機能低下に対する治療や予防を目的とした効果的で効率的な治療法の開発に向けた基礎的資料を提供することを目的としている。 2018年度は,悪液質を惹起するリポ多糖体または副腎皮質ホルモン投与によって萎縮が生じる骨格筋細胞(C2C12筋管細胞)を用いて,温熱刺激による悪液質に伴う骨格筋萎縮の進行抑制効果とその作用機序について検討した。その結果,筋管細胞に温熱刺激を負荷すると,悪液質に伴う萎縮進行が抑制されると同時に,タンパク質分解に関わるシグナル伝達系の活性化およびタンパク質合成に関わるシグナル伝達系の不活性化が抑制されることを明らかにした。一方,筋管細胞に分岐鎖アミノ酸を投与すると,タンパク質合成に関わるシグナル伝達系が活性化するが,予想に反して筋管細胞の肥大は生じないことを確認した。 今後は,悪液質に由来する骨格筋機能低下に対する温熱刺激と分岐鎖アミノ酸投与の併用効果,ならびに,他の栄養素(ビタミンDやホエイプロテインなど)の効果について検討を進めていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は,熱やアミノ酸栄養に対する筋細胞応答に着目し,温熱刺激または分岐鎖アミノ酸投与が悪液質に由来する骨格筋機能低下(代謝異常とそれに伴う骨格筋萎縮)の進行過程に及ぼす影響とその作用機序の解明を行い,臨床応用に向けた科学的根拠を集積するとともに,温熱刺激と分岐鎖アミノ投与を組み合わせた治療介入が,より効果的かつ効率的に骨格筋機能低下を抑制するのではないかといった仮説を培養細胞やモデル動物を用いて検証することが目的である。 今回,悪液質に伴うC2C12筋管細胞の萎縮進行が温熱刺激を負荷することでほぼ完全に抑制されることや,その作用機序のひとつとして,悪液質によって誘導されるタンパク質分解に関わるシグナル伝達系の活性化とタンパク質合成に関わるシグナル伝達系の不活性化の両方が抑制されることが寄与している可能性を確認することができた。他方,C2C12筋管細胞に分岐鎖アミノ酸を投与すると,タンパク質合成に関わるシグナル伝達系が活性化するが,その反応は一過性であり,結果的にC2C12筋管細胞の肥大は生じないことを確認した。 以上の検証は,培養細胞実験に基づくものであるが,その成果は運動制限を有する非感染性慢性疾患患者に対する新たな方法論の開発に向けた基礎的資料を提供することができるものであり,骨格筋機能障害に対する安全かつ効果的な予防・治療法の在り方にも示唆を与えることができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度に実施したC2C12筋管細胞を用いた培養細胞実験では,温熱刺激を負荷することで悪液質を惹起するリポ多糖体または副腎皮質ホルモンに曝されたC2C12筋管細胞の萎縮進行を抑制できるが,分岐鎖アミノ酸を投与してもC2C12筋管細胞の肥大は生じないことを確認した。今後は,培養細胞を用いた追加実験を行うとともに,悪液質に由来する骨格筋機能低下に対する温熱刺激と分岐鎖アミノ酸投与の併用効果,ならびに,他の栄養素(ビタミンDやホエイプロテインなど)の効果を検討していく予定である。次いで,培養細胞実験で得られたデータを基礎資料として,悪液質モデル動物を用いて,温熱刺激,分岐鎖アミノ酸投与,他の栄養素,またはそれらの併用による治療介入を行い,その効果検証を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
次年度の実験のタイミングに合わせて試薬を購入する際の資金の一部とする予定であるため,当該年度分を次年度に繰り越した。 今後の研究の推進方策で述べたように,2019年度は培養細胞と実験動物を用いるため,細胞培養や動物飼育などに必要となる消耗品(培養容器・培地・試薬など)の購入経費が必要となる。また,各実験終了後には生化学的検索と分子生物学的検索を各種抗体や試薬,測定キットを用いて実施する。そのため,これらの購入経費が必要となる。 実験技術の一部の協力・支援を早稲田大学,日本体育大学,名古屋大学の研究者に依頼しており,出張旅費が必要である。また,情報収集や成果発表のため,国内外の関連学会に参加を予定しており,その旅費が必要である。なお,旅費は公共交通機関利用,宿泊費を含んでいる。本研究に関する情報収集に伴い,会議費や印刷費が必要となる。また,成果発表に際しては,英文校閲料および投稿料が必要である。そのため,これらの費用が必要となる。
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Research Products
(11 results)