2018 Fiscal Year Research-status Report
Research on vulnerable elderly group at accumulated risks in rural area
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17K01574
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Research Institution | Hokkaido University of Science |
Principal Investigator |
河口 明人 北海道科学大学, 保健医療学部, 教授 (70214608)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
秋山 正晴 北海道科学大学, 保健医療学部, 教授 (10382475)
佐藤 洋一郎 北海道科学大学, 保健医療学部, 講師 (20433518)
細谷 志帆 北海道科学大学, 保健医療学部, 助教 (40736386) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 高齢者 / 地域医療 / 介護予防 / サルコペニア / ソーシャルキャピタル / 孤立閉じこもり |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度の介護予防健診を継続し住民健診の症例数を増加するとともに、「サルコペニアおよびダイナペニア診断の課題について」の検討から、以下のことが明らかとなった。加齢に伴う生理的予備能の低下としての「サルコペニア」は、筋量、筋力を主な診断基準として認識されている。一方で筋量は必ずしも身体機能を反映しないことも報告されている。したがって高齢者の健康評価において、筋力および筋量評価と日常生活に不可欠の身体機能との関連を検討し、高齢者のQOLやADをよりよく反映する理学評価について検討した。65歳以上の地域在住自立高齢者120名を対象に、BIA法(InBody 720)による四肢骨格筋量指数SMIおよび握力と歩行速度を測定した。サルコペニアの診断は、青年集団の-2SD未満のSMI(男性<6.5 kg/m2、女性<5.0 kg/m2)を前提とし、握力低下(男性<26kg, 女性<18 kg)、または歩行速度< 0.8m/sのいずれかを充たす高齢者とした。一方、歩行速度が1.0m/s未満の高齢者を「ダイナペニア」(身体遂行機能低下症)と定義し、SF-36に基づくQOL(PCS:身体サマリースコア)およびADL(老研式活動能力指標)得点をサルコペニアおよびダイナペニアの有無の2群間で比較した。サルコペニア群(男性8名、女性9名)は非サルコペニア群と比較して高齢であったが、男性では歩行速度およびQOL、ADLに差は無かった。一方でダイナペニア群(男性16名、女性21名)は非ダイナペニア群と比較してSMIには差がみられないにもかかわらず、QOL、ADL得点ともに有意に低値を示し、ダイナペニア群はQOLおよびADL低下を有意に反映していた。これらの結果は、筋量や静的な筋力(握力)の評価以上に、日常生活における移動能力(歩行機能)の評価が重要であることを示すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度に引き続き、地域在住65歳以上自立高齢者の健診を継続することによって、150名の詳細な健康・生活情報を収集した。この健診は、これまでの身体に焦点がある健診とは異なり、医科・歯科同時健診、理学的身体機能評価(フレイル、サルコペニアなどの評価)、QOL評価、社会心理性評価、さらに介護予防基礎情報収集票である基本チェックリスト、認知機能評価(MMSE, HDS-R)を含む包括的な健診であり、超高齢社会における高齢者のwell-being向上への政策のための科学的根拠収集に特化した健診である。今年度の分析によって以下のことを明らかにした。 (1)高齢者の複数の身体機能評価(歩行速度、CS-30、TUGなど)において、歩行速度および歩幅が極めて重要かつ簡便な指標であり、高齢者健診に必須の情報であること、インスリン抵抗性性の指標(HOMA-IR)が、歩行速度の低下と有意に関連していていること、およびインスリン抵抗性が示唆される群では肥満・脂質異常症などを合併し、メタボリック・シンドロームの傾向にあること、さらに歩行速度の維持が高齢者の良好なQOLおよびADLに大きく影響していることである。 (2)医科・歯科同時健診によって、両者の同時評価の重要性を指摘した。とくに高齢者の嚥下機能を含む口腔機能(オーラルフレイル)が身体的機能の低下と連動していること、しがってオーラルフレイルは全身的フレイルの一部分現象である可能性を指摘した。これまで口腔機能と全身的な医学的・理学的身体機能とは別々に評価されてきたが、高齢者における同時評価(医科歯科理学連携)の必要性と重要性を示した。 (3)高齢者の閉じこもり・孤立の生活環境について調査し、閉じこもりが主に身体的理由に基づくこと、孤立している高齢者のQOLが心理的に劣化していることなど、地域交通の確保や孤独死予防にとって重要なデータとして示した。
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Strategy for Future Research Activity |
地域社会が抱える課題は大きく、包括ケアシステムは、すでに高齢者介護環境への準備というだけでなく、地域社会の持続再生と切り離せない課題となっている。したがって、この研究の結果から得られた情報を地域社会の現実的な政策へと連動させていく試みが重要である。少子化の進行と超高齢社会にあって、人口の40%を占める高齢者集団が、これまでと同様に若い世代から支えられる集団でありつづけるならば、地域社会の持続性は展望できない。さらに包括ケアシステムの確立が叫ばれながらも、地域社会では高齢者が「終の棲家」を求めて流出しているのが現状である(しかも介護保険の責任主体は自治体に残る)。地域社会にとって、高齢者が残された唯一の人的資源である。人口減少社会にあって、地域社会の持続再生の鍵は、定住人口の増加であるよりは、地域在住高齢者の時間とエネルギーの組織化と動員である。したがってこれらの研究を、高齢者の社会参加活動に結びつけていく方略が必要である。昨年の研究では、社会参加している高齢者の精神的健康度が良好であること、人間関係が良好な高齢者は、精神的健康感も高いことを報告した。これらを基に、健診によって抽出される闊達な高齢者のリクルートと、地域社会消滅の危機感を持続再生への使命感に昇華させる人的結集を促す政策や、生きがいのある柔軟な社会生産活動の開発が必要である。本研究の「包括的シニア健診」の開発と導入は、人材と医療資源が限られ、しかも効果的なセーフティーネットの構築や介護予防活動と社会的生産活動の連携などの困難な政策が求められる地域社会(郡部)においてとくに重要である。高齢者の情報を集中的かつ効率的に、しかも詳細に把握することが可能となるからである。本研究の細部の情報は地域社会の高齢者の実態に基づく政策立案の検討のための科学的根拠として活用可能であり自治体との協働学習へと繋げていく。
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Causes of Carryover |
分担研究者の旅費および消耗品使用が留保された。引き続き、高齢者の介護予防シニア健診および分析、論文化の費用として充当する。
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Research Products
(8 results)