2018 Fiscal Year Research-status Report
スポーツ選手のマイクロサッカードを指標とした予測反応事態における潜在的注意
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17K01689
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
高橋 正則 日本大学, 文理学部, 教授 (10297757)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 予測 / マイクロサッカード / 眼球運動 / 固視微動 / テニス / 潜在的注意 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、テニスのサービスに対する予測反応事態における熟練者の眼球運動を急速眼球運動解析装置を用いて測定し、潜在的な視覚的注意を示すと考えられる固視微動の一成分であるマイクロサッカードの検出を試みるとともに、マイクロサッカードが検出された場合には、その出現頻度や方向などを指標として、熟練者におけるサービスのコース予測のための潜在的注意の内容を検討することを目的としている。 これまで、予測と眼球運動に関する先行研究や急速眼球運動解析装置の特性を十分精査し、予備実験等を経て研究デザインを確認した後、テニスのシングルスにおけるサービスに対する予測反応課題を設定し、熟練者8名を対象とした本実験を実施した。その結果、眼球運動に関して、ビデオ映像を自由に視覚探索しながら予測反応するフリー条件ではマイクロサッカードはほとんど検出されなかったが、2つの注視条件(インパクト注視条件とリリース注視条件)で検出されたことから、予測反応事態においてビデオ映像に注視すべきターゲットを設定した場合にはマイクロサッカードが出現する可能性が示唆された。 平成30年度は、得られた眼球運動データについて、その最大速度や振幅、持続時間からマイクロサッカードとしての妥当性を検証し、その出現頻度や方向の指標からシングルスにおけるサービスのコース予測のための潜在的注意の内容を推定した。また、同様の実験環境で前衛情報を含むダブルスのサービスの場合についても実験的に検討したところ、シングルスの場合と同様、2つの注視条件でマイクロサッカードを検出し、その妥当性を確認した。さらに、マイクロサッカードの各パラメータからダブルスのサービスに対するレシーバーの潜在的注意の内容を推定した。いずれも予測反応事態に注視条件の設定を付加することでマイクロサッカードが検出されたことは、潜在的注意の内容を推定する上で意義があるものと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、テニスのシングルスにおけるサービスに対する予測反応課題を設定し、熟練者8名を対象とした本実験を実施した結果、予測反応結果(予測正確率、反応時間)と眼球運動データの収集が可能となった。また、マイクロサッカードの出現を可能とする十分な注視時間の確保を考慮し、視覚刺激となるサービス動作のビデオ映像中に注視すべきターゲットをスーパーインポーズすることによってフリー条件の予測反応課題に注視条件を追加した結果、フリー条件ではなく注視条件でマイクロサッカードが検出されたことから、視覚刺激とした動画の場合でも注視すべきターゲットを設けることで十分な注視時間を確保でき、予測反応事態におけるマイクロサッカードの検出が可能となることが示唆された。 平成30年度は、得られた眼球運動データについて、最大速度や振幅、持続時間などのパラメータを算出し、Martinez-Conde et al.(2004)が示した特徴量の範囲と照らし合わせることでマイクロサッカードとしての妥当性を確認した。またマイクロサッカードの出現頻度や方向などの各パラメータから、相手のサービス動作に対する潜在的注意の具体的内容が推定できたことで、予測反応事態における潜在的注意の検討にマイクロサッカードを指標として利用できる可能性を見出せた。そこで、同様の実験環境で前衛情報を含むダブルスのサービスの場合についても実験的に検討したところ、シングルスの場合と同様、2つの注視条件でマイクロサッカードを検出し、その妥当性を確認した。さらに、マイクロサッカードの各パラメータからダブルスのサービスに対するレシーバーの潜在的注意の内容が推定可能であった。以上、予測反応事態における注視条件の設定によりマイクロサッカードの検出が可能となり、潜在的注意の内容を推定するための指標となり得ることが明らかにされた点が成果として挙げられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの2年間で行った2つの実験的検討は、マイクロサッカードが出現可能となるような実験環境の構築によってマイクロサッカードが検出され、その各パラメータ(出現頻度や振幅、方向など)から予測反応事態における潜在的注意の内容が推定可能となった。 そこで、本研究課題における今後の推進方策について、当初、マイクロサッカードにより視覚的注意の内容が特定できた場合、その知識を利用して学習内容を検討し、その効果を実験的に検証する予定であった。しかし、潜在的注意の内容が推定できたとしても、視覚的注意の内容を網羅したわけでなく、また視覚的手掛かりの利用方法は被験者個人でも異なることが推測され、効率的な情報処理に関する客観的指標を得たことにはならないことから、本研究が効率的な予測スキルの獲得を目指した適切な学習内容の検討に及ばないことが危惧された。そのため、平成31年度の研究計画を変更し、これまで実施した2つの実験的検討結果を比較し、テニスのシングルスとダブルスにおけるサービスに対する潜在的注意の内容の差異から、コース予測時の視覚的手掛かりの特徴を把握することとし、それぞれの競技特性を考慮したより詳細な検討を行いたい。具体的には、2つの実験結果によるマイクロサッカードの各パラメータを比較し、また実際のテニス競技場面の実態と照らし合わせながらコース予測時の潜在的注意について総合的に検討する予定である。これにより、潜在的注意の内容を推定するための指標としてマイクロサッカードが有効であることを示し、予測に関わる認知的技能について、競技特性に応じた有効な宣言的知識を明らかにするための知見となることを期待したい。
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Causes of Carryover |
平成30年度では、当初見込んでいた人件費が予算額に満たなかったため、平成31年度に約14万円を繰り越すこととなった。平成31年度においては、実際の競技場面(2020全豪オープンテニス大会:オーストラリア・メルボルン)において、世界一流テニス選手のサービスおよびレシーブ技術の現状を把握するための観察調査を継続して実施予定であることから、そのための経費(旅費または入場料等)として使用を予定している。また、その他の使用計画については、当初の研究計画に示した通り、消耗品およびデータ処理、統計解析のための人件費に充てる予定である。
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Research Products
(7 results)