2018 Fiscal Year Research-status Report
総合型クラブの育成支援を担う複数の民間スポーツ組織の相補的関係性が創出する公共圏
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17K01739
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
水上 博司 日本大学, 文理学部, 教授 (90242924)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 総合型地域スポーツクラブ / 社会関係資本 / スポーツの公共圏 / スポーツ組織論 / アドボカシー / ダブル・コンティンジェンシー / 関係基盤 / 橋渡し型社会関係資本 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は,総合型地域スポーツクラブの育成支援をおこなってきた情報ネットワーク支援NPO(以下、支援NPO)と総合型地域スポーツクラブ(以下、総合型クラブ)の関係から生み出された社会関係資本の形成プロセスを明らかにした.研究成果は「総合型地域スポーツクラブと情報ネットワーク支援NPOの関係性から形成された社会関係資本:東日本大震災の支援寄付をめぐって」(水上博司・黒須充,体育学研究:早期公開は2019年3月28日)に公表した. 本研究では、東日本大震災後、支援NPOが実施した寄付支援プロジェクトに着目し、このプロジェクトの寄付元になった総合型クラブとの社会関係資本の形成プロセスと社会関係資本が経済資本に転移する可能性を明らかにしてきた。それは一方で、社会関係資本の形成プロセスを地域スポーツの推進や政策提言をも担うアドボカシー(政策提言)活動につながる可能性を持ったスポーツの公共圏としても論じることであった。 本研究で明らかにできた社会関係資本の形成プロセスには、3つのフェーズがある。一つ目のフェーズは、総合型クラブ間や支援NPOと総合型クラブの間に十分な関係性が見られないダブル・コンティンジェンシーの状況であり、これを「不確定性のネットワーク」と定義した。二つ目のフェーズは、総合型クラブが互いに備えている同質の資源(種目や設立経緯など)を通じて個別的なネットワークが形成される状況であり、これを「縁(共有属性)のネットワーク」と定義した。三つ目のフェーズは、情報拠点化した総合型クラブが橋渡しとなって小規模な総合型クラブ間のネットワークを形成している状況であり、これを「橋渡しのネットワーク」と定義した。こうした3つのフェーズを社会関係資本の形成プロセスとして説明し、経済資本を生み出す可能性を持った組織間関係論としてスポーツ組織論に新たな視座を提示することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度発表した研究成果「公益財団法人日本体育協会と情報ネットワーク支援NPOの相補的関係性:「動員」と「象徴的運動」の関係から創出される公共圏をめぐって」は、2019年度中にInternational Journal of Sport and Health Scienceに英文翻訳後公表することになっている。現在、その校閲作業の最終段階である。またスポーツ社会学分野では、2020東京をテーマにした複数の研究者による共著出版が企画をされている。この共著へ本研究成果の一部を公表する準備を進めている。 支援NPOの活動は、1997年から2018年までの約20年間である。これまで3つの研究成果を通じてこの期間の支援NPOの活動を分析してきたが、2006年から2011年は未だ手付かずである。現在、この期間に展開された支援NPOの活動内容に関するデータを分析中である。また同時に、この期間は民主党政権が誕生してから東日本大震災が発生するまでが対象となっており、わが国におけるレジームが大きく転換を迫られた社会的インパクトの大きな時期でもある。とくに、政策立案プロセスに関する仕組みに大きな刷新が試みられ、数多くのスポーツ施策について、「事業仕分け」がなされ「無駄遣い」であるという評価がなされる政治耐性であった。こうした状況下において支援NPOは、総合型クラブの維持存続に向けて、どのような社会運動論的な活動を展開してきたのか、さらに、総合型クラブが形成してきた社会関係資本は、どのような役割を果たしてきたのか、この点に着目した政策文書の収集及び全国の総合型クラブからの各種資料の提供・収集を行っているところである。また、同様の研究関心をもって研究を遂行している研究者らとの積極的な情報交換をしていく必要がある.そうした研究交流会の準備も進めており,2019年度内には定期的な研究交流会を予定している.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果では、支援NPOと公益財団法人日本体育協会の相補的関係性、さらには、支援NPOと総合型クラブの社会関係資本を形成できた関係性の分析を通して、こうした組織間の協働的・相補的な関係がスポーツの公共圏でもあることを明らかにしてきた。こうしたスポーツの公共圏は、単なる組織間の関係性というだけには留まらず、国及び地方自治体、さらには地方体育協会や各競技団体が立案していくビジョンや各種施策の提言に対してアドボカシー(政策提言)活動を試みていく可能性を有することを明らかにしてきた。こうして点に注意すれば、2009年に誕生した民主党政権は、これまで長く続いた自由民主党政権の政策を見直し、「官」に依存してきた政策立案を再編しようとした政治体制の転換を見逃すわけにはいかない。この間の支援NPOの活動は、大きな意味を持っていると考えている。とくに総合型クラブの不要論・廃止論が出てきた際に、これまでのネットワーク、いわば総合型クラブの社会関係資本を通じて「反対声明」を発表し、インターネットツールを活用して総合型クラブの維持と存続を呼びかけて、この廃止論を終息させたことに着目すべきであろう。本研究では、この事象を社会学的に分析・考察することで、政策立案という民主的なガバナンスに支援NPOのような情報ネットワークNPOがどのように政治参加してくことができるのかを明らかにしたいと考えている。それは総合型クラブの中核的なスタッフであるクラブマネージャーのプロフェッショナリズムとしての職能を検討することでもあり、クラブマネージャーらの協働がどのような社会的意味を持つべきなのか、そのガバナンスのあり方を民主的ガバナンスとしてどのように説明することができるのかを問うことにつながると考えている。今後、こうした視点にも着目した研究を遂行していきたい。
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Causes of Carryover |
本研究を学術論文として投稿する際には、和文抄録の英文化などその翻訳とネイティブチェックにかかる費用の支出をあらかじめ想定してしておく必要があります。とくに、和文抄録は数回の査読(論文審査)を通じて改稿する必要があり、その都度、翻訳とネイティブチェックを依頼する必要ががります。とりわけ、社会学的な論考の場合、専門的な翻訳を請け負ってくれる業者が少ないため翻訳料はやや高価格帯で設定されています。こうした事態に備えて次年度への使用計画となる経費が生じたとご理解ください。
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Research Products
(4 results)