2017 Fiscal Year Research-status Report
ソーシャル・キャピタルと心身の健康との関連に関する社会神経科学的研究
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17K01827
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Research Institution | Aichi Medical University |
Principal Investigator |
松永 昌宏 愛知医科大学, 医学部, 講師 (00533960)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ソーシャル・キャピタル / 共感性 / MRI / セロトニン / 遺伝子多型 |
Outline of Annual Research Achievements |
人と人との社会的なつながりをもつことは身体の健康によいことが分かっている。例えば、良好な関係を全くもっていないことは、毎日15本以上のタバコを吸う人と同じくらい健康に悪いという報告もある。また、身体の健康だけではなく、精神衛生によいことも示されている。例えば、幸せな人に囲まれている人は、自身の幸福度が将来的に上昇する確率が高くなるという(Fowler and Christakis, BMJ, 2008)。 本研究では、人と人との社会的なつながりが心身の健康状態に与えるよい影響の神経基盤を明らかにする目的で、私たちの持つ共感性(他者の感情状態を自分も感じることができたり、他者の信念や思想などを推察したりすることができるという能力)に着目した。 同じ出来事を経験したとしても、自分ひとりだけで経験するよりも、友人と一緒に経験する方が幸せ。私たち人間が持つ共感性のひとつである、「幸せの共有」とも言えるこの現象に対し、今回私たちは、関連する脳領域と遺伝子を見出した。セロトニン2A受容体遺伝子多型と、心の理論に関連する脳領域が幸せの共有に大きな役割を担っていることを、機能的MRIを用いた社会神経科学的実験と、比較的大きな集団を対象としたアンケート調査により示すことができた。 また、私たちは唾液中セロトニンと共感性との関連を見出した。実験の結果、唾液中セロトニン濃度が高いほど、他者の気持ちを推論するために重要である視点取得能力(共感性能力のひとつ)が低下しており、他者と幸せを共有する割合も弱いことが示された。さらに、幼少期の家庭環境が共感性能力、唾液中セロトニン濃度と大きく関連していることも合わせて示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、人と人との社会的なつながりが心身の健康状態に与えるよい影響のメカニズムを明らかにする目的で共感性に着目し、その神経基盤と遺伝的基盤を明らかにすることができた。実験前には、社会的つながりと関連するオキシトシンとの関連を予想していたが、機能的MRIを用いた社会神経科学的実験の結果、心の理論に関連する脳領域とセロトニンが幸せの共有現象に関連することを見出し、新しい知見を得ることができた。それに加えて幼少期の家庭環境がそれらに大きな影響を及ぼしていることも明らかとなり、今後の研究の展開に期待が出来る成果を得ることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
先行研究から、幼少期の家庭環境と個人の遺伝的基盤は相互作用することが分かっている。例えば、セロトニントラスポーター遺伝子(5-HTTLPR)の多型が日常のストレスへの耐性と関わることが先行研究で示されている(SS型の人ほどストレスを受けるとうつになりやすい)が、幼少期にストレスを与えられているSS型の人の方が、よりうつ症状を悪化させるという報告がある(Taylor et al., 2006)。 このことから、幼少期の家庭環境、現在の人と人とのつながり、遺伝的基盤は相互作用して心身の健康状態に影響を及ぼす可能性が示唆される。そこで次年度以降、大規模なアンケート調査により、心身の健康状態に対する幼少期の家庭環境・現在の人と人とのつながり・遺伝的基盤の相互作用を明らかにするとともに、機能的MRIを用いたその脳神経基盤の解明に取り組む。
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Causes of Carryover |
3月末に学会出張(衛生学会)があり、年度末の予算調整で0にすることができなかった。差額分は次年度のMRI実験における人件費・謝金に使用する予定。
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Research Products
(14 results)