2019 Fiscal Year Annual Research Report
The role of reward system and circadian clock in maternal memory
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17K01986
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
冨永 恵子 (吉野恵子) 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (60256196)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | マウス / 母性行動 / シナプス可塑性 / 概日リズム |
Outline of Annual Research Achievements |
養育行動は繁殖戦略にとって極めて重要である。げっ歯類の研究によると、雌親による養育行動(母性行動)には学習・記憶としての側面がある(母性記憶)。本研究は、「母性記憶は、母性行動の経験による脳内回路の可塑的な変化によるのか」の問いに答えることを目的とした。母性行動を経験し母性記憶が形成された経産マウスと、仔への母性行動を示さない未経産マウスについて、母性行動の誘発に関わるとされる脳部位でのシナプス数を比較した。その結果、母性行動を経験した雌親では、行動の動機付けに関与する報酬系でのシナプス数の増加が認められたが、空間記憶などに関与する海馬などではシナプス数は増加していなかった。出産後数日間、蛋白合成阻害剤を脳内投与すると、報酬系におけるシナプス数の増加は阻害された。また、仔と分離した後の2回目の母性行動の即時発現(母性記憶)も阻害された。すなわち、出産直後の仔との接触刺激が、蛋白合成依存的に構造可塑性現象を引き起こし、母性記憶が形成されると考えられる。さらに、シナプス可塑性現象に関与するという、Ca2+透過型AMPA受容体の阻害剤でも母性記憶の形成が阻害され、母性記憶が可塑性現象であることの傍証を固めた。2019年度では、母性記憶の正常な形成を乱す社会的要因を探索するために、ストレス負荷を試みた。強いストレスは育児放棄を誘発し母性記憶の観察に適さないため、リズム障害に着目し、時計遺伝子欠損マウスを用いた。時計遺伝子欠損マウスの母性行動パターンは、野生型のそれとは明らかに異なっていたが、母性記憶の形成には異常は見られなかった。リズム障害は、母性記憶形成の阻害因子とはならないことが分かった。以上の結果から、母性行動の経験は脳内報酬系に記憶され、次の母性行動の動機付けの基盤となることが明らかとなった。本研究は、母性行動の異常を修復する方法の解明にもつながると期待される。
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