2018 Fiscal Year Research-status Report
リナロール香気の抗不安作用と中枢神経回路基盤の解明
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17K01988
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
柏谷 英樹 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 講師 (70328376)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
桑木 共之 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (80205260)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 抗不安作用 / リナロール / 機能性香気 / ベンゾジアゼピン / 嗅覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、リナロール香気暴露による抗不安作用の検証及び確認実験を行った。特に論文投稿時に指摘された、ベンゾジアゼピン系拮抗薬及びセロトニン1A受容体拮抗薬を用いた薬理学的実験における溶媒コントロール実験を詳細に行い、香気誘発性抗不安効果の発現にはベンゾジアゼピン受容体を介した神経伝達が必須であることを確認した。また、嗅覚入力を遮断するメチルインドール投与時に本当にリナロール香気に対する嗅覚入力が遮断されているかを検証する為、habituation/dishabituation testを追加し、これを嗅覚失調状態を証明した。これらの結果は、リナロール香気により誘発される抗不安効果が、現在広く臨床で用いられているベンゾジアゼピン系薬剤が作用する神経回路と同じ回路を共有することを意味しており、リナロール香気誘発性抗不安効果がベンゾジアゼピン系薬剤による治療の代替、あるいは補完的な役割を果たしうることを示唆している。
ここまでの研究内容は論文としてまとめ学術誌にて出版された(Harada, Kashiwadani, Kanmura, Kuwaki. Frontiers in Behavioral Neuroscice 12:241 (2018), doi: 10.3389/fnbeh.2018.00241)。また本研究は国内主要メディア(朝日新聞、日経新聞等)のみならず、New York Times、TheTimes(London)、AAAS等海外のメディアでも広く紹介され、多くの反響を得た。
また、神経活性化マーカーc-Fos蛋白質の発現を指標に、リナロール香気誘発性抗不安効果に関与する脳領域の特定を試みた。予備実験の結果、不安惹起時に活性化するいくつかの脳領域の中で、視床及び視床下部の特定の領域がリナロール香気暴露で活性化の減弱が観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、リナロール香気に誘発される抗不安作用についての論文のrevisionに必要な追加実験を行い、最終的にFrontiers in Behavioral Neuroscience誌に受理、掲載された。
次に、リナロール香気誘発性抗不安作用に寄与する中枢神経回路について、オレキシン神経系に着目し検証を開始した。オレキシン神経系はリナロール香気誘発性鎮痛に必要不可欠な役割を果たすことが知られている。予備実験としてオレキシン作動性神経を遺伝子工学的手法により選択的に除去したマウスと野生型マウスでリナロール誘発性抗不安を比較している。現在ミュータントマウスを繁殖させつつ、順次実験に用い検証しているところである。
更に、リナロール香気誘発性抗不安作用に寄与する脳領域を検証する為、神経活動マーカーである最初期遺伝子c-Fos蛋白質の発現を指標に、リナロール香気暴露により活性化する領域を網羅的に探索している。予備実験の結果、嗅覚中枢領域(嗅球、嗅皮質)において特徴的な発現が観察されたものの、不安関連領域におけるc-Fos発現変動は観察されなかった。次に、不安惹起薬としてしられるベンゾジアゼピン受容体アンタゴニストを事前投与し不安様行動を起こしたマウスのリナロール香気暴露前後におけるc-Fos発現の変化を検証した。その結果、前頭前皮質、視床、視床下部、脳幹網様体の特定の領域で不安惹起薬による活性化がリナロール香気暴露により減弱していることが観察された。
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Strategy for Future Research Activity |
オレキシン神経選択的除去マウス及びオレキシン欠損マウスにおけるリナロール香気誘発性抗不安効果を詳細に検討することにより、リナロール香気誘発性鎮痛には必須であったオレキシン作動性神経が抗不安効果にも必須であるかを明らかにする。オレキシン神経は不安様行動の発現に重要ないくつかの領域に強い投射を持つことが知られており、これらの経路が香気誘発性抗不安の発現に必須であるかを検討する。申請者はオレキシン神経特異的にDREADDを発現させ、その神経活性をコントロールすることに成功しており、今後オレキシン受容体発現細胞特異的にDREADDを発現させることで、オレキシン神経系を介した香気誘発性抗不安効果の中枢神経回路メカニズムを検証していく予定である。
また、不安惹起薬により活性化される脳領域のリナロール香気暴露による抑制の検証を更に進めていく。リナロール香気誘発性抗不安効果に寄与する脳領域をより網羅的に解析する。特に視床及び視床下部の特定の領域において不安惹起薬による活性化がリナロール香気により著明に減弱することが予備実験で観察されているため、これらの領域を含む中枢神経回路が香気誘発性抗不安作用に寄与することが予想される。
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Research Products
(5 results)