2018 Fiscal Year Research-status Report
植林と土地紛争がもたらす「被害」:フィールド研究からの環境ガバナンスの問い直し
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17K01998
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
笹岡 正俊 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (80470110)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 植林事業 / 土地紛争 / 環境ガバナンス / 被害 / スマトラ / ポリティカルエコロジー / 紙・パルプ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、文献調査によりA社の「自主行動計画」に基づくガバナンスを担う主要アクターの関係と近年その関係がどう変化してきているのかを明らかにした。加えて、調査対象地であるジャンビ州テボ県L村にて約1週間の現地調査を実施した。この調査では、キーインフォーマントインタビューを行い、前回調査(2017年12月に実施)時から、土地問題解決のプロセスの進捗、L村B集落(主要調査対象地)への新規入植者、入植者の他出があったかなど企業の事業地内に作られた入植地の居住者の動向、植林事業地の新たな「占拠」(L村の別の住民が2018年5月に、アカシアの収穫後の約493ヘクタールの土地に新らたに入植した)の動向について情報を収集した。その結果以下の点が明らかになった。B集落では、2018年9月現在、約600ヘクタールの土地に約230世帯が農地を開き、約60世帯はすでに入植地に居を構えて暮らしていた。彼らが求めているのは植林事業地内の約1500ヘクタールの土地をコンセッションエリア(植林事業許可発給対象地)から出し、自分たちに戻すことである。2018年6月、係争中の土地を三つの地区(住民が農地を造成している地区、アカシアが植栽されている地区、住民の作物とアカシアが混在した地域)に区分し、それらの分布を示す地図を、住民と植林企業双方の検証チームで作成することが決められた。しかし、調査時点においても、検証作業は進められていなかった。今後は、こうした終わりの見えない紛争状態を生きることの「被害」を把握する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、紙・パルプ原料の生産地において、植林企業と土地をめぐって紛争が起きている地域社会を研究対象地として、植林による環境変化と土地紛争により地域の生活者がどのような「被害」を被ってきたかを総体的・内在的に明らかにすることを目的としている。H29年度の実績報告書では、林産物採取・販売の衰退とコメ自給システムの崩壊といった暮らしの変化を当事者がどのようにとらえているか、紛争状態(土地をめぐって争ったままの状況)を生きるということがどのような精神的被害をもたらしているのかを明らかにしていくことをH30年度の課題とした。しかし、H30年度は、新たな土地「占拠」の動きがあったため、現地調査では、その動向を把握することに努めた。その結果、上記の課題に取り組むうえで十分なデータを集めることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、土地をめぐって争っている植林事業地の生活者が経験している「被害」を包括的・内在的に理解するために、インテンシブな聞き取りを重ね、こうした暮らしの変化を当事者がどのようなものとして理解しているか、また、紛争状態(土地をめぐって争ったままの状況)が長期にわたり続くこと、また終わりが見えない生活が続くことが、彼ら彼女らにどのようなものとして経験されているのかについての「語り」のデータを集める。そして、これまで収集したデータを統合し、土地をめぐって争っている植林事業地の生活者が経験している「被害」を描くとともに、企業の「自主行動計画」を軸とした「熱帯林ガバナンス」の在り方を生活者の視点から問い直す際に、「被害」の総体的・内在的理解を試みるフィールド研究が果しえる役割についても考察していく。
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Causes of Carryover |
当初予定をしていた、現地調査の調査助手への謝金の支払いがなくなったためである。本研究課題は次年度が最終年となる。これまでの研究成果をいくつかに分け、複数の学会で公表する予定である。次年度使用額(32986円)は、学会発表・参加のための旅費に充てる。
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