2019 Fiscal Year Research-status Report
Freedom, Development and Indigenous People: Case of Mexico
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17K02001
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
受田 宏之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (20466816)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | メキシコ / 先住民 / オトミー(語族) / 貧困 / インフォーマリティ / EZLN / ヤマギシ会 / ユートピア |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、2019年11月に開催された国際開発学会と人間の安全保障学会の合同大会で先住民と教育についての研究報告を行い、2020年2月には不平等に関する国際シンポジウムでEZLN(サパティスタ民族解放軍)と日本のヤマギシ会を比較した報告を行った。8月から9月にかけて1ヵ月ほどメキシコに滞在し、メキシコシティに住むオトミー(族)移住者とチアパス州のEZLNについての調査に従事した。11月には、メキシコ人編集者でEZLNとヤマギシ会の比較研究の共同研究者であるGerardo Villadelangel氏が来日し、2週間の滞在の間にヤマギシ会について一緒に調査を行った。夏のメキシコ出張と秋のVilladelangel氏の来日には本科研費を使用した。 本年度の主たる活動は、2017年11月にヤマギシ会の豊里・春日山の両実顕地をVilladelangelと訪問することで始まった、EZLNとヤマギシ会を性格の異なる現代のユートピア運動として分析する研究である。EZLNは1994年にチアパス州で武装蜂起した後、先住民を含むマイノリティの権利擁護を唱えるようになり、国内外のラディカルな左派勢力に影響を与えてきたが、従来からの私の調査対象であるオトミー移住者とも接点があるため、メキシコシティでもEZLNにかかわる調査を行った。これ以外にも、共同研究者である人類学者のAlonso Guerrero氏とは、ビデオの製作、インフォーマントへのライフヒストリーの聞き取り等、オトミー移住者についての共同研究を続けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度も不法占拠地に集住するオトミー移住者の悉皆調査はできなかった一方で、彼らも登場するEZLNとヤマギシ会の比較研究については、チアパス州の2つのEZLN自治区や支持団体、「先住民大学」の訪問、ヤマギシ会の5つの実顕地の訪問と識者へのインタビュー、研究報告用の論文執筆など、大きく前進した。武装蜂起を経て新自由主義批判と先住民自治を唱えるようになったEZLNは、私の考える先住民の自由論において1つの極をなす存在であり、それに関する膨大な先行研究が著されてきた。自己犠牲的で経済志向のヤマギシ会に対し、自己肯定的、政治志向で弾力性を持つユートピア運動としてEZLNを捉える本研究は、日本人研究者による知的貢献といえる。 執筆については、先住民運動と多文化主義についての論述を含む現代メキシコ論(「測り過ぎ,闘い過ぎ : メインストリームとラディカリズムの狭間でみたメキシコ」)を『東洋文化』に執筆したほか、これまでの先住民研究を振り返った啓蒙的なエッセイ(「先住民研究の難しさと喜び」)さらにはメキシコの左派ポピュリスト政権の性格を論じたエッセイ(「希望は残っているのか―メキシコ、オブラドールの大勝から1年を経て」)を執筆した。また、『アグロエコロジー』の翻訳書がようやく公刊されたが、アグロエコロジーは小農運動や先住民運動とも結び付きが深く、丁寧な解題をつけたことも含め、本研究プロジェクトの業績に含めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、5月にオンラインで開催されるLASA(Latin American Studies Association)の世界大会でEZLNとヤマギシ会を比較した研究を報告することが確定している。ほかに、(1)Villadelangel氏とメキシコのTV局(Canal 11)のクルーが来日しヤマギシ会についてのTV番組を撮影することへの同行、(2)8月から9月にかけてメキシコを1カ月近く訪問しオトミー移住者とチアパスの自治コミュニティに関する調査の実施、(3)単独でヤマギシ会の実顕地(豊里や春日山、岡部)を訪れインタビュー等の調査の実施、を予定している。とはいえ、コロナ禍の展開次第では延期や縮小もあり得る。これらの調査を実施しえない場合は、オトミー移住者、EZLNとヤマギシ会のインフォーマントへのオンラインによるインタビューや、EZLNとヤマギシ会のウェブサイトの過去3年間の全内容の比較分析に取り組むことになる。 研究成果として、EZLNとヤマギシ会を比較した論文を人類学系の英語の学術誌に投稿するほか、オトミー移住者の事例を主に取り上げるインフォーマリティに関する西語論文をメキシコの学術誌(Foro Internacional)に投稿する。また、ヤマギシ会については、Villadelangel氏と共著でスペイン語の小冊子を出版する計画である。Alonso Guerrero氏との共著の執筆には、その一部の学術誌への投稿を含め、継続的に取り組む。
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Causes of Carryover |
年度内に使い切る必要のある他の予算の利用を優先したため。
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Research Products
(6 results)