2019 Fiscal Year Research-status Report
Changing environment and vanishing local knowledge
Project/Area Number |
17K02014
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊藤 詞子 京都大学, 野生動物研究センター, 特任研究員 (60402749)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 長期変動 / 植生 / 気候変動 / 在来知 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、昨年度に引き続き、現地での植生調査と、国内では植生の詳細なマッピング作業を中心に作業を進めた。 調査地である東アフリカのマハレ山塊国立公園(タンザニア連合共和国)では、温暖化の影響が気象資料から認められている。現地で収集された気象資料の電子化作業を継続しておこなっている。 気候変動と植生遷移の双方の影響をうけている調査地の植生についても、追跡調査をおこなっている。植生の長期的変化を明らかにするため、三度目となる植生調査を昨年度から開始しており、今年度の調査までで、面積にして全体の約27%を終了することができた。データベース化作業はほぼ終えており、現地で収集した各植物個体のマッピング作業を進めている。予備分析の結果、この27%の範囲(2.31ヘクタール)内の樹木1024個体(第一回調査:1996年;第二回調査:2012年)のうち、32%が第二回調査時までに失われ、今回の調査で新たに8%(81個体)が死亡と推定され、さらに2%(24個体)が何らかの問題を抱えており、これらも調査終了時までに死亡する可能性がある。木本ツル植物428個体についても、同様の調査と予備分析を進めている。 この一帯を居住地としていた人びとは、精緻な植物分類体系をもっている。残念ながら、国立公園化と学校教育の浸透に伴い、こうした在来知は失われつつある。彼らが将来的にこうした知を、必要な時に利用できるようにするため、さらには、環境変動のなかで植物自体が失われていく現状に鑑みて、現地植物名や該当植物の情報についての資料収集は急務である。今年度は作成中の現地植物名リストを現地に持込み、地域住民の助力を得てさらなる精確を期す予定であったが、十分な滞在期間を確保できなかったため、来年度におこないたい。一方で、図鑑作成に必須の植物写真の収集や、植物についての情報収集については継続しておこなえた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、現地滞在期間を十分に確保できず、調査が当初予定したほど進まなかった。その理由は、現場での調査時間を短くするための準備にかなりの時間を要してしまったこと、調査許可が取得できるまでにも数ヶ月を要してしまい許可が得られた頃には、現地が研究者で混み合っていたため(野生動物への負荷軽減のため一度に滞在する研究者の数を自主的に制限している)、年度末まで調査を待たねばならなくなったことが大きい。
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Strategy for Future Research Activity |
気象および植物季節動態についての資料は引き続き電子化作業を進める。 植生調査については、植物の生存状況やトランゼクトの撹乱程度などに調査時間が依存する。しかし、これには実際に調査をしないと調査にかかる時間を予測できないが、とにかくできるだけ早く進めたい。また、調査にかかる時間は、作業内容を熟知した調査アシスタントの数にも依存するので、十分な人数を確保できるよう善処する。 ただし、新型コロナウイルスのパンデミック状況は、日本国内でも終息の目処が立っていないが、調査地であるアフリカでは今後どのような流行の状況になるのか不明である。また、地域住民はもとより、絶滅危惧種であるチンパンジーその他の野生動物への感染は絶対に避けねばならない。最悪の場合は、来年度中の渡航は不可能となる可能性も十分にありうる。この場合は、現在までに手元にある気象、植物季節動態、植物知識、植生の資料をもとに、分析と(植物知識・植生については暫定的な)まとめの作業を日本国内でおこなう。
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Causes of Carryover |
現地調査のための時間を十分に確保できなかったことから、次年度使用額が生じた。この助成額と翌年度分として請求した助成金と合わせて、基本的には果たせなかった現地滞在費用に当てたいと考えている。
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