2017 Fiscal Year Research-status Report
フィリピンの労働レジーム‐グローバル資本主義下の自由化と伝統の接合
Project/Area Number |
17K02019
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
太田 和宏 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (00273748)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | フィリピン / 労働 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度の2017年はフィリピンの労働状況の概要の把握を主たる目的として調査・情報収集を行った。正規雇用を減じて非正規雇用を増やす雇用柔軟化flexibilizatioの進展、1970年代に不況対策として講じられた海外出稼ぎ政策の本格化と出稼ぎ者数の増加、家族雇用、小規模自営など不安定なインフォーマルセクター機能の継続、また児童労働などの法領域従事者が混在している。一方、コールセンター従事者など高度なスキルを要する専門的労働市場も拡張している。これらに関する情報を文献資料、官庁文書、面接により入手した。これらはフィリピン経済、労働市場が競争的なグローバル経済の深化に対応して、高度専門職業人と低賃金労働者とを同時提供する労働レジームとして構造化されてきた。 特に非正規雇用労働者やインフォーマル部門従事者は、ピラミッド構造の底辺に位置し、低賃金の保証と高い失業率と不完全雇用率が引き起こす矛盾を緩和する役割を果たしている。さらに海外出稼ぎ労働は、国内の高失業率、低賃金、不法労働の横行といった労働矛盾を問題化させずい存続させる機能を果たしている状況を検討した。 2018年度は特にフィリピンの労働構造の最底辺を支えるインフォーマル部門のうち児童労働に関する情報を現地調査機関の協力を得て行った。農作物プランテーション、小規模鉱山などでの労働力、あるいは家族形態による不法労働が、ミンダナオ、ビコール等の地方で慣行として行われている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フィリピンの労働状況の概要を把握する作業、および途上国における労働レジームの理論的把握を重点的に行った。文献資料および中央官庁、機関を通じた情報の収集は一定程度進展したのに対して、実際の労働現場、特に当初予定した農村部における労働実態について現地訪問をしたうえで聞き取り調査を行ことは予定通り進展しなかった。 事前に関連機関、組織との調整をしたうえで今後取り組む予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、フィリピンの具体的労働現場における実態把握に焦点を当てて調査を進める。昨年度はフィリピンの労働構造、および労働行政等の制度的側面を中心として考察を進めた。2018年度は、それら諸制度が実際の生産現場、労働現場でどのように運用され、またいかなる問題が生じ、そして処理・対処されているのかの把握に努める。 さまざまな立場と理念を持つ諸労働組合の実態、組織化も進んでいない農村部における労働の実態、逆に新しく期待される産業として市場を広げてきたBOP(ビジネス・アウトソーシング)分野での実態の把握を進める。 成果の一部は秋に予定される第3回フィリピン研究国際大会(PSCJ)にて方向をする予定である。
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Causes of Carryover |
2017年度は現地調査を2度行う予定でいたところ、1回しかできなかった。また時間的制約から現地での滞在期間も限られ、マニラ首都圏以外の地方での調査を行うことができなかった。その関係で現地調査もマニラ首都圏で労働雇用省等の機関訪問、文献収集等が中心となった。2018年度は、現地調査の期間を確保することに加えて、マニラ首都圏以外の地方都市、農村部において労働現場や面接聞き取りを中心とした現地調査を行う予定でいる。その際に現地大学及び民間調査機関の研究者、あるいは学生の協力を得て調査を遂行する。収集された情報の整理のための補助にも予算の支出を予定している。 本研究テーマに関連する図書の購入は昨年度さほど多くなかったが、今年度は対象をフィリピン労働問題に狭く絞るのではなく、労働問題一般、労使関係、また社会政策、政策政治分野にも広げて多く購入することを予定している。 昨年度は研究成果を国際会議等で報告する機会を得られなかったが、2018年度は本調査研究の一部成果を秋に広島大学を会場として開催予定している第3回フィリピン研究国際大会(PSCJ)にて報告することを計画している。その際、フィリピンはじめ外国の研究者巣メイトの共同パネルを構成して研究報告することを現在計画している。パネラーの旅費等の一部を本研究費から支出する予定でいる。
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Research Products
(1 results)