2020 Fiscal Year Research-status Report
フィリピンの労働レジーム‐グローバル資本主義下の自由化と伝統の接合
Project/Area Number |
17K02019
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
太田 和宏 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (00273748)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | フィリピン / 労働 / 自由化 / グローバリゼーション |
Outline of Annual Research Achievements |
フィリピンにおける伝統的、あるいは前近代的な労働慣行とグローバル競争に対応する自由化された労働慣行が融合する実態を、フィリピン独自の「労働接合レジーム」として追究することが本研究のテーマである。それを柔軟化された非正規雇用の拡大、正規雇用の特権化、インフォーマル部門機能の拡大、海外出稼ぎ労働の貢献、さらには第一次産業の衰退とサービス産業の比重の拡大といった要素の接合として捉える。それぞれの分野における調査に基づき実情を明らかにすること、およびそれらの背景にある労働法制の変化、労働運動の衰退等の社会的条件の変化について検討してきた。しかし、調査期間中に感染症が蔓延し、海外渡航、現地調査が不可能になったため研究活動が大きく制約を受けた。その解除を待ちながら調査期間を延長してきた。 現地訪問のできない期間は、文献情報に依拠してフィリピンにおける労働環境の整理に取り組んできた。しかし2020年頃から急速に深刻化した感染症蔓延による影響は、失業と低雇用の予想以上の増加、インフォーマル部門従事者の更なる不安定化、海外出稼ぎ者の強制帰国と海外労働機会の喪失など、これまでにない新しい状況を生んだ。これらは従来の状況の単なる悪化として捉えられるものではなく、労働慣行や労働構造の根本的な改編をせまる可能性を秘め、従来想定してきたフィリピン固有の「労働接合レジーム」の枠組みの再検討をも迫っている。こうした新しい状況を踏まえて研究に取り組んできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
コロナ禍により現地を訪問しての資料収集や聞き取り調査ができず、主として公刊文献やネット上で公開された情報に依拠して問題を整理せざるを得ない制限があった。さらに、このコロナ蔓延によるフィリピン労働市場、労働慣行への影響は、当初予想されたものよりも大きく、従来想定していた労働構造分析の枠組みを再度検討しなおす作業をも必要としている。スペインで予定されたフィリピン研究国際大会での研究成果報告を予定していたが、大会そのものが中止された。 その上、所属大学における海外教育事業のコロナ蔓延状況下における対応に労力を割かざるを得ない事情が出来し、本研究課題の進展に大きな影響がでた。
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Strategy for Future Research Activity |
予定された研究遂行期間をすでに超えているため、2021年度中に全体計画をまとめる予定である。海外渡航が解除されれれば現地調査に積極的に取り組むつもりであるが、それができない場合でも概念的な整理を中心にして本プロジェクトの完遂をめざす。 経済のグローバル化に対応した労働慣行、労働市場における伝統様式と、自由化された様式のフィリピン独自の接合形態の実態を解明することが目的であるが、一方でコロナ禍のもたらした構造的な変化が、想定する労働接合レジーム形態にどれほどの改変を迫るものであるのかが、重要な考察点となる。
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Causes of Carryover |
コロナ蔓延により海外渡航をともなう現地調査ができなかったので、状況の改善と制限の解除を待ったことに加え、このコロナ禍がもたらしたフィリピン労働事情への影響が、本研究の主たる枠組みの根本的な再検討を迫ったために、その整理に時間を要し、予算の執行が遅れた。 今後は制限された条件を前提としながらも、その中で最善の調査方法を計画的に遂行することで、本研究を完遂したいと考えている。
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Research Products
(1 results)