2018 Fiscal Year Research-status Report
The study of local human resource management by Japanese firms in Taiwan
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17K02038
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Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
国府 俊一郎 大東文化大学, 経営学部, 准教授 (90759721)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 台湾 / 外食産業 / 労務管理 / 人材確保 / 人材活用 / 最低賃金 / 日系企業の海外進出 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、29年度で行なった理論構築に基づき、台湾に進出している日系企業へのヒアリング調査を中心に研究を進めた。平成30年8月に台湾でビジネスを展開する外食企業4社を訪問し、労働者の定着状況や教育訓練、リテンション施策等のヒアリングを行った。ここでのヒアリングをまとめた成果を同年9月に同志社大学で開催されたアジア経営学会全国大会で「台湾における高学歴化と労務管理の対応-日系外食産業を中心に-」というタイトルにまとめて報告した。本報告の成果は論文としてアジア経営学会の査読付き学会報に投稿しており、平成31年4月現在は査読過程を通過、9月に発行される。 また、数多くの学会における研究成果の発表や論文執筆ならびに台湾の研究者への訪問インタビュー等など精力的な研究活動を行なった。例えば、平成30年5月に横浜市立大学で開催された日本台湾学会全国大会では同年3月に行った台湾の4つの大学へのヒアリングをまとめた研究成果を「台湾における大学新卒の不完全就業の研究-サービス業における実態調査を踏まえて」というタイトルにまとめて報告した。日本台湾学会には昨年度報告した内容をまとめた学術論文を学会年報に投稿していたが、厳正な査読を通過し、平成30年7月、発行に至った。論文のタイトルは、「台湾における高学歴化と不完全就業-宿泊業・飲食サービス業を中心に-」である。 加えて、平成31年3月には、新卒の大卒労働者の供給口である大学に対する調査を行なった。調査対象としたのはホテル・飲食業など観光業の振興に積極的である台湾南部に位置する、国立高雄科技大学ならびに国立高雄餐旅大学である。台湾では一般的に優秀な学生が国立大学に進学する。両校は国立大学でありながらホテル・飲食業の経営や実技に強い。優秀な学生を排出する両校の卒業生は就職先として日本企業を選好するのかあるいは忌避するのか、研究を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画について、おおむね順調に進展していると把握している。上記研究実績において述べたように、平成29年度で確立した理論に基づき平成30年度は企業を対象としたヒアリング調査を行い、実態の把握に努めた。ヒアリング調査では、外食大手企業の日本本社の協力を得ることができたほか、現地経済研究所(中華経済研究院)の協力も得ることができ、合計4社に対し、十分な聞き取りを行うことができた。また、その成果論文は査読付きの論文集に掲載されることが決まった。以上が、本研究が「順調に」進展していると考える根拠である。 しかしながら、「おおむね」とせざるを得なかったのは、平成29年度に想定していた外食産業を取り囲む労働市場ならびに外部環境について、新たに影響要因として加えなければならない要素が出現したからである。その一つは「最低賃金引き上げ」の問題である。台湾では平成28年12月に大統領が変わってから親労働的な政策がとられている。その一環として最低賃金が年々引き上げられており、その結果として従来現地企業と比べて高額だった日系企業の賃金が「最低賃金水準」近くにまで相対的に低下してしまったのである。賃金の優位性を失えば、離職率が急速に高まる。本研究では最低賃金という政治的要因に配慮せざるを得ない状況になっている。 もう一点は、研究対象とする産業を外食産業から、ホテル・観光業にまで広げる必要が出てきたことである。平成29年度の研究も30年度のヒアリングも「外食産業」をテーマとして、主にレストラン業界に焦点を絞った研究を展開してきた。しかしながら、外食産業で働いていた労働者の転職傾向を見る限り、外食産業に留まっていない。特にレストランなどの外食企業の上位の就職先としてホテル業界が考えられており、レストランを退職した労働者がホテル業界に転職するケースが観察されるのである。
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Strategy for Future Research Activity |
上記研究進捗状況において新たな課題として示した、台湾における最低賃金引き上げの実態と日系外食産業への影響について、目下研究を進めているところである。台湾の最低賃金に関する調査をまとめた研究成果を、令和元年5月12日に徳島文理大学で開催された日本比較経営学会全国大会にて報告を行った。そこで得られた有意義な助言等を元に、8月末までに論文にまとめ、年度末までに発行できるようデータや文献を集め直して鋭意執筆中であり、最低賃金制度の影響について本研究の成果に織り込むことができるようになると期待している。 また、令和元年8月中に平成30年の夏に訪問した台湾にある日系企業を再度訪問してヒアリングを行い、それぞれのデータの更新を依頼するとともに、この一年間に行ってきた人材確保のための様々な施策についての効果を客観的に計測する予定である。特に平成30年度のヒアリングの際に、人材流出に歯止めをかけることができた例を示した企業について、深堀した研究を行う予定である。この2回目のヒアリングの結果については、令和元年9月に小樽商科大学で開催されるアジア経営学会全国大会にて、報告を行えるよう準備を整えているところである。 査読や発刊までの時間を考慮すれば、論文発表は年度末に間に合わない可能性があるが、最終的な本研究の成果報告はアジア経営学会学会誌(査読付き)に投稿する予定である。また、そこで収まらなかった知見をまとめて、大東文化大学経営学部の『経営論集』に投稿し、本研究の一応の完成とする予定である。 さらに、今後の研究のシーズとして、外食企業だけでなく、ホテル業界を含めた労働者の人材確保について研究を行うため、先行研究の取りまとめならびに現地企業へのヒアリングも予定している。
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Causes of Carryover |
本学では3月に使用した研究費については、次年度度5月に予算執行とする手続きをとる。そのため、筆者が3月に行った台湾へのヒアリング調査についての費用は、手続き上次年度の執行となるのであり、本報告書執筆時点では、すでに使用済である。
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Research Products
(7 results)