2018 Fiscal Year Research-status Report
Jewish Refugees and Japan (1939-1946) : Australian Testimonies
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17K02041
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
菅野 賢治 東京理科大学, 理工学部教養, 教授 (70262061)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ユダヤ / 難民 / オーストラリア / 上海 / 神戸 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の2年目となる2018年度は、申請時に立てた研究計画に即し、(1)日本国内での聞き取り調査(インタヴュー)と資料調査、(2)海外での聞き取り調査(インタヴュー)と資料調査、(3)研究代表者と研究協力者の打ち合わせ、意見交換、(4)研究成果の随時発信(日本語と英語の特設ホームページを運営)と得られた反響のフィードバックを行った。 (1)については、兵庫県神戸市において、かつてユダヤ難民が滞在した家屋の現在の持ち主の方への聞き取り調査、神戸市文書館での資料調査、ならびに映像作家・大澤未来氏の協力を得て、研究成果報告用ビデオのための撮影も行った。 (2)については、オーストラリアのメルボルンとシドニーにおいて、元ユダヤ難民Maria Kammのご家族の方々へのインタヴュー、作家Arnold Zable氏へのインタヴュー、メルボルン・ホロコースト記念館での映像資料調査、元ユダヤ難民Marcel Weyland氏へのインタヴュー、また中国・上海においては、上記Weyland氏の家族がかつて間借りしていた住居の特定、ユダヤ難民用に設置された「無国籍避難民指定居住区」の跡地の訪問、かつてユダヤ難民たちが住んだ家の現在の所有者の方へのインタヴューを行い、それぞれの機会に、映像作家・大澤未来氏の協力を得て、研究成果報告用ビデオのための撮影も行った。 (3)については、東京理科大学神楽坂キャンパスの会議室において、月に1度ないし2度の頻度で研究打ち合わせ会を開き、研究協力者(大澤未来、小畑美史、若松亮太各氏)との情報交換、意見交換を密にした。 (4)については、前年度に開設した特設ホームページをさらに充実させ、オーストラリアの研究協力者Rachel Walls氏の協力を得て、英語版の英語表記をブラッシュアップした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書に記した「研究計画」の内容は、おおむねその通りに実現でき、いくつか、予想以上の好条件にも恵まれた。 (1)国内での調査については、ユダヤ難民が上陸した福井県敦賀市、また仮滞在の場所となった神戸市、いずれについても、当初から予想されていたように、難民たちの姿を直に目撃した新たな証言者(可能性として85歳以上)の発見は困難であったが、神戸市文書館所蔵の資料や『福井新聞』の旧号をつうじて、間接的な証言を多く収集できた。 (2)国外での調査については、聞き取りの対象者の一人で元ユダヤ難民のMaria Kamm氏が、4月の訪問時、すでに認知症が進行し、インタヴューに応じられない状態となっていたが(2019年2月、逝去)、娘のSusan Hearst氏、孫のElise Hearst氏らが、未発表の手記などを積極的に提供してくださった。もう一人の対象者Marcel Weyland氏(92歳)は、なおご健在で、今後の調査にも積極的な協力姿勢を示してくださっている。 (3)研究協力者の映像作家、大澤未来氏は、成果報告用ビデオの制作という枠を越えて、みずからの将来の映像作品に向けた可能性を本研究の主題に見出し、リサーチ、証言収集、撮影作業の面で、当初の期待以上に積極的な協力姿勢を見せてくださっている。前年度末に制作し、特設ホームページ上で公開した予告編ビデオ「海でなくてどこに」は、国内外から大きな反響を呼んでいる。 (4)本研究の申請時にはいまだ知遇を得ていなかったオーストラリア、Charles Sturt大学講師Rachel Walls氏が、本研究の趣旨に賛同し、本年度から新たに研究協力者として加わった。これにより、英語で行う作業の質と効率性が大幅に向上し、氏がオーストラリアの学術界、メディア界に有している人脈も活用できるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
残る2年の研究期間についても、過去2年で培われた研究のノウハウと充実した研究協力体制を維持していくことで、当初の研究計画どおりの成果を上げることができるとの手応えがあり、計画変更の必要や遂行上の問題点は特に感じられない。取り組むべき課題としては、以下の3点が上げられる。 (1)3年目を迎える2019年度には、前半に収集した資料、証言と、蓄積された映像素材を用いて、成果報告用の中編ビデオの制作に取りかかるが、集まった素材の豊富さから見て、当初予定していた20~30分には収まらず、40~60分程度のものになる可能性があり、研究協力者の映像作家、大澤未来氏への作業依頼のみならず、研究代表者本人もが、映像資料の処理、編集技術を習得する必要が生じている。 (2)本研究の遂行途上、国内外から予想外の反応と研究協力の申し出があったことと、調査・研究の対象を、オーストラリアから、難民たちのほかの移住先(アメリカ、カナダ、アルゼンチン、ニュージーランド)にも拡大する可能性が開けてきたため、本研究を発展させた研究計画として「国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))」にも申請し、幸い、採択の運びとなった。今後は、テーマが大きく重なり合うこれら2つの研究課題のあいだにも、しかるべき区分を設け、「両者共倒れ」にならないよう、研究遂行のためのエフォートをうまく配分していく必要がある。 (3)本研究課題の遂行上、研究協力者の映像作家、大澤未来氏の役割が重きをなすなか、撮影・編集作業にかかる支出を適正に行っていく必要がある。他方、専門研究の経過や成果を広く社会に還元するための方途として、映像を用いることの有効性があらためて認識され、本研究の成果を、将来、大澤氏自身の創作活動につなげていくため、科研費以外の基金(オーストラリア日本交流基金、国際交流基金など)の獲得も検討していきたい。
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Remarks |
別に受け入れ中の科研費、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))課題番号18KK0031(「戦時期の日本ならびに上海に滞在したユダヤ難民のその後に関する越境的かつ多角的研究」、平成30~34年度)と共通。
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Research Products
(7 results)