2017 Fiscal Year Research-status Report
The ICTY and the aftermath in the post-genocidal community - Srebrenica
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17K02045
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
長 有紀枝 立教大学, 21世紀社会デザイン研究科, 教授 (10552432)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ジェノサイド予防 / ICTY / 国際刑事裁判所 / 移行期正義 / スレブレニツァ / バルカン |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は当初の計画に基づき1)"local"に焦点をあてたボスニア・ヘルツェゴビナの現地調査を8月下旬に、2)ICTYの閉廷に関する実地調査とムラジッチ判決の傍聴をそれぞれ9月と11月にオランダ・ハーグで行った。 1)においては、スレブレニツァ及び近郊において、虐殺の跡地、慰霊碑、遺体の一次、二次埋設(遺棄)地の現地調査を行うとともに、生存者、犠牲者遺族、遺体の遺棄地の近隣住民に聞き取り調査を行った。特に前年の事前調査時に面会した関係者の紹介で、最も多くの遺体が発見されたカメニッツァのチャンチャリ道路沿いの集落で、自身も生存者である住民に集中した聞き取り調査を行った。 サラエボにおいては、スレブレニツァやボスニア紛争の資料館・博物館において戦争被害の記憶に関する資料収集、関係者へのインタビューを行った。またバニャルカ地域において、セルビア人側の戦争博物館や第二次世界大戦時の強制収容所跡地であるスタラ・グラディシュカを訪問し、関係者に聞き取りを行った。 以上の作業を通じて、ジェノサイド後の移行期社会の民族間の和解と分断の現状について理解を深めると同時に、加害と被害が時と場所を変えて重層的に重なりあうボスニア社会の実態把握に努めた。 2)においては9月に開催されたICTY最後のOPEN DAY行事(シンポジウム、ワークショップ)に参加し、ICTYと、その後継機関・国際残余メカニズム(IRMCT)の検察官や裁判官らにインタビューを実施し、ICTY閉廷が地域や国際社会にもたらす意義や影響、含意について知見を得ることができた。また11月22日のムラジッチ判決をICTY内で傍聴し、関係者、弁護団、犠牲者遺族らにインタビューを行い、加害者・被害者双方の視点からみた判決の意味や重みについて、また国際刑事裁判の役割について、貴重な知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に従い、ボスニア・ヘルツェゴビナおよびICTYを訪問し、実地調査、インタビュー調査、資料の収集と分析を進めることができた。 不測の事態としては、研究代表者が傍聴したムラジッチ判決の1週間後、11月29日のICTY最後の上訴審判決において、被告の一人が判決申し渡し直後に法廷内で服毒自殺を図るという衝撃的な事件が発生した(搬送先病院にて死亡が確認)。ボスニアのクロアチア人勢力がモスタルはじめ、ムスリム人に対して行った一連の犯罪で政治・軍双方の指導者6人がJCEを根拠として裁かれた「プルリッチ他事件」判決においてのことで、ボスニアのクロアチア軍の最高司令官がその人であった。 この事件は、ICTYの関係者のみならず、加害(クロアチア人)・被害(ムスリム人)両民族にとり、また本事件については部外者であるセルビア人にとっても大きな衝撃をもって受け止められ、各地で大きく報道された。研究代表者は事件発生当時、現地にはいなかったが、前年および本年の一連の調査で親交のある各地の調査協力者を通じ、現地社会の受け止め方について広範かつ多様な情報を収集することができた。同時に国際刑事裁判が及ぼす影響についても多方面から意見を収集することができた。 以上よりおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、ICTY及びスレブレニツァ判決が事件の加害者・被害者双方にどのような意味をもったのか、またlocal/regional/internationalの3つのレベルの民族融和や和解、紛争の再発防止にいかなる影響を与えているのか、関係者の聞き取り調査などから明らかにし、今後のジェノサイドの予防・研究に資することを目的とするものである。 平成29年度は、現地調査をもとに、おもにlocalレベルでのスレブレニツァの余波とその首謀者に対するICTY判決の影響を調査した。平成30年度以降はregional/internationalな影響を、現地調査とインタビュー調査をもとに検討し、最終年度には研究会、シンポジウムの開催を通じてさらに研究を深めていくことを計画していた。 平成30年度以降、この予定に従って研究を進めていくが、29年度はlocalに特化、30年度はregionalに特化、31年度はinternationalに特化という形式ではなく、30年度はlocal + regional、31年度はlocal + regional + international という形で、前年度の成果をもとに、重層的に研究を進めていく予定である。
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