2019 Fiscal Year Research-status Report
Explication for Strategy of Adaptation to the Extreme Environment and Climatic Variation by Nomadic Herders across Western Mongolia
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17K02047
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
相馬 拓也 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (60779114)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 伝統知(T.E.K.) / 災害対処 / モンゴル遊牧民 / オーラルヒストリー / 生存戦略 / 環境適応 / アルタイ山脈 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は第Ⅶ期~第Ⅷ期のフィールド調査(実働日数40日間)により、次の課題1~3のデータ収集を昨年より継続した。2018~2019年にかけては、政権交代の影響により、ホブド県等での調査許可の取得に時間がかかったため、予備調査地ウムヌ・ゴビ県セブレイ郡でデータ収集を実施した。 1. 課題「T1.定量社会調査」を対面式の訪問調査によりウムヌ・ゴビ県のラクダ遊牧世帯18世帯に実施した。インタビューでは、ラクダの乳利用、水源確保など、乾燥地特有の適応戦略の伝統知が多数収集された。調査では、水源利用や種雄の選定基準などの家畜繁殖法が収集された。フィールド調査と並行して、実務支援者2名が独自にホブド県ムンフハイルハン郡、アルハンガイ県イヒタミル郡を訪れ、合わせて93件のアンケート調査を実施した。 2. 課題「T2.家畜行動群のGPS計測」「T3.集乳量/乳製品生産量」を実務支援者2名とともに実施した。今年度は各世帯の家畜群から選び出したヒツジ・ヤギおよびラクダにGPS機器を装着して追跡・行動特性調査を実施した。 3. 課題「T4.家畜管理行動および日帰り放牧の行動観察」「T5.牧畜世帯の労働投下量およびエネルギー効率(kcal/kcal)測定」では、2世帯の男性2名、女性2名を対象に合計4日間の計測を実施した。 これら2019年度の成果・活動は、独自開設のウェブサイト「相馬拓也 研究室」(somatakuya.jp)を通じて公開した。また複数の講演会「Migrations: Movement of People, Ideas, and Goods (UBIAS Symposium of the year 2019)」 (2019年10月17日)、「名古屋大学 人文地理学セミナー」 (2020年1月23日)、で成果発表の機会を得たことで、情報発信と敷衍の双方で進展があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、現地でのカウンターパートおよび実務支援者が作業に習熟したことから、より効率的なデータ収集が実施された。昨年度にひきつづき、実務支援者の出身地や親戚縁者を通じたスノーボール式人脈開拓を継続し、地域の長老・古老人物などの識者から貴重な伝統知のドキュメンテーションに成功した。これに平行して、モンゴル牧畜文化との比較データとして、キルギス遊牧民、カザフ遊牧民、ネパール牧畜文化のデータ収集も部分的に実施している。当初の計画課題と連動して、ローカルな伝統知を「牧畜文化」「山岳・乾燥地生活」の文脈の中で相対化できる成果が得られた。 2017年度より、当初予定の調査地に物理的なアクセスが困難となった場所、また調査許可の取得が新たに別途義務付けられた場所が複数生じた。そのため、予備調査地点(ウムヌゴビ県・オブス県・アルハンガイ県)での調査実施により、データの補強を実施した。同地はラクダ遊牧民による乾燥性ステップ草原への独自の適応戦略のデータ収集が行われており、これまでの研究の比較データとして多くの成果があった。アルタイ山脈最南部における野生動植物、気象予知法に関する貴重なオーラルヒストリーが多数記録された。調査対象地をモンゴル高原西部~中部~南部に横断してのデータ収集により、地域・集団・民族個別の気候変動への対処や災害対処の手法があきらかになりつつある。「防災・減災術」「家畜管理法」「在来知」を客観的に比較可能とすることで、社会評価の新たな研究モデル構築の準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度2020年度は最終年度として、これまで得たデータの集中的なデータ分析に加え、論文・著作物としての準備が進んでいる。 第4年度(2020年度)は、第Ⅸ期~第Ⅹ期フィールド調査[実働日数約50日間]の実施により、データ収集を実施する。ひきつづき調査地点SS1~SS4を中心とし、比較データの収集から新たにアルハンガイ県とウムヌゴビ県などの生活環境の異なる地点でもデータ収集を実施する。 遂行課題はひきつづき、「T4.家畜管理行動/日帰り放牧の行動観察」、「T5.牧畜世帯の労働投下量測定」に重点を置いた調査を実施する。 また社会調査面では昨年度に引き続き、研究協力者・実務支援者(3名)の別働隊が分担し、地域横断的に約100世帯へのインタビュー実施を目標とする。また、在来有用・薬用植物の分布調査や、GIS分析に着手する。 2019年度のまでの調査結果により、在来の伝統知を活用した防災・減災・災害対処の知と技法が、遊牧コミュニティの持続性に大きな役割を持つことが明らかとなりつつある。これらは民俗学上の貴重な知的資源でもある。現代の防災システムに在来知識を統合した新たな領域「民俗防災学」にもとづき、グローバルな研究着手を検討している。今後は、モンゴルに加えてひきつづきキルギス、カザフスタン、ネパール、ブータン、タジキスタンなど、より広範な中央ユーラシア社会での調査も視野に収めている。防災・減災やコミュニティの持続性に向けたさらなるエビデンスの拡充により、「科学者と牧畜従事者の双方が科学的知見を享受できる相互互恵性」の達成を目指す。
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Research Products
(4 results)