2021 Fiscal Year Research-status Report
Explication for Strategy of Adaptation to the Extreme Environment and Climatic Variation by Nomadic Herders across Western Mongolia
Project/Area Number |
17K02047
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
相馬 拓也 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (60779114)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | アルタイ山脈 / アロスタシス / オーラルヒストリー / 生存戦略 / 環境適応 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年に引き続き、モンゴル国の入国制限により渡航がかなわなかったものの、これまでの知見とデータに理論的な考察を加えることで、①伝統知のアクシオロジー、②環境適応アロスタシス、③伝統知の示唆する防災・減災術、などの理論的視座を整備することができた。 遊牧民の培った草原への適応力と、幾度ものゾド災害への防災・減災・災害対処の伝統知T.E.K.は、遊牧民が人類の叡智に残した貢献として再評価できる。 モンゴル遊牧民は、定期的に起こるゾドを生活の一部として能動的に受容し、酷寒の大地と過酷な自然環境に寄り添う環境変化の適応者として自らを客体化することで、草原世界を生き抜いてきた。ローカルな環境保全にグローバルな姿勢で取り組む昨今の社会的要請に、本研究の中核テーマでもある「遊牧民の環境適応・生存戦略・防災減災術」は、環境適応アロスタシスのもっとも実践的なケーススタディとして応答できる有益な展望が見いだされる。 ただし本研究では、地方での若者の遊牧離れと人口流出によるマンパワーの喪失、そして減災の伝統知の継承者不足など、社会問題化するコミュニティの災害対処能力の低下も明らかにすることができた。そして、モンゴルの自然環境を圧迫し、災害リスクの増長を加速させるのは、ほかでもない遊牧民の放牧態度や、草原資源の搾取にもその原因の多くが由来する。 既存のデータに新たな視座を含めた議論は、『草原の掟―西部モンゴル遊牧社会における生存戦略のエスノグラフィ』(ナカニシヤ出版、2022年1月)として出版し、本科研の一定の成果として示すことができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最終年度に予定してたデータ補完のためのフィールド調査が遂行できていないものの、既存データをこれまでの研究と新たな視座から考察を加え、一定の成果を示すことができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
本科研プロジェクトでは、遊牧民の生存能力と環境適応が、独自の伝統知に色濃く反映されており、かつ伝統知は遊牧民の儀礼・言動・行為・民間信仰などの精神性の確立に大きく寄与していることを明らかとした。 今後はモンゴル~シルクロードの広域な草原世界のエスノグラフィック・データを広く収集し、これまでの知見を世界的な文脈に紐づけして、地域固有の特異性や共通点を導き出す。とくに、家畜飼養方法や遊動生活を基盤にした、長距離移動やマイグレーションの可能性についてのモデル考察(ドライビングフォースの特定)に着手したいと考えている。
|
Causes of Carryover |
昨年に引き続き、COVID-19により主要調査国のモンゴルが2020年末から完全に国境封鎖状態となり、渡航がかなわなかった。そのため、計画していたフィールドワークの旅費など支出がなくなり、次年度使用額が生じた。
|
Research Products
(7 results)