2019 Fiscal Year Research-status Report
ブータンの発展政策の実証的研究を通した内発的発展論の再検討
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17K02056
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
真崎 克彦 甲南大学, マネジメント創造学部, 教授 (30365837)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 地域研究 / ブータン王国 / 内発的発展 / 市場経済 / 自由民主主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、村落生活を重んじる在来文化に即して①市場経済化と②自由民主主義を推進するという、ブータンの内発的発展政策の検証に取り組んでいる。2019年度は引き続き、①については中部のシンカル村での乳業協同組合づくりを取り上げ、村落生活を重んじる在来文化に即していかに市場経済化が推進されているのかを調査した。他方、②についてはブータンの政治体制の内発的な特性についての論文(英語)を仕上げた。その体制の根本原理である国民総幸福(GNH)はしばしば、統治階級にとっての体制保守の手段であると批判されるが、そうした批判を「ポストヒューマニティーズ」(西洋近代的な人間中心主義を相対化する学説)よりとらえ返す論文である。 GNH批判ではよく、国民の政治的自由や権利が十全に保障されず、仏教文化や自然環境の保全という名目のもと、国王を頂点とする階級社会を存続せしめる手立てにもなっているとされる。しかし「ポストヒューマニティーズ」から逆照射すると、そうした批判は西洋近代的な人間中心主義に片寄っていることがわかる。国王や宗教といった旧来の権威が減ずることや、国家共同体に束縛されない自由で民主的な統治が進むことで社会発展が進むとする人間中心主義である。 こうしたGNH批判を検討すべく、上記の論文ではブルーノ・ラトゥールのアクターネットワーク論(ANT)を取り上げている。ANTによれば、研究者は自らが馴れ親しんだ所与の「体系」に引き付けて政治を把握しようとしてはならず、そこに収まり切らない多様な要素が織りなすネットワークとして、政治をとらえ直す必要がある。論文ではそこで、「ポストデモクラシー」批判(自由民主主義は必ずしも公共性に即した政治運営を担保しないという批判)の高まりに絡めて、ブータンの政体を国内の統治階級の体制保守の意図だけに還元できないことを指摘した。現在ある学術誌の審査を受けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルスの感染拡大でブータン政府が査証発給を停止したため、2020年3月に予定されていた現地調査を中止せざるを得なかった。現地調査では標記の論文執筆のために、ブータンの政治体制を取り巻く多様なネットワークを調べる予定であったが、その代わりに共同執筆者である王立経営大学(RIM: Royal Institute of Management)のジット・ツェリン准教授とSNSで話し合いを重ねながら論文を仕上げることができた。また、この論文は「研究の軸が「ポストヒューマニティーズ」に定まりつつある」(昨年度の実施状況報告書)という前年の成果をさらに深化させる研究活動であり、この点も踏まえて「(2)おおむね順調に進展している」と区分している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後とも、ティンプーとシンカル村での現地調査を軸とした調査研究を行いたい。ティンプーでは特に2019年度に実現できなかった②自由民主主義についての現地調査を実施したいと考えている。2018年度には国政選挙が行われ、政権交代が起きている。そこで今後、政権交代によって内発的発展政策に何らかの軌道修正がなされたのか否か、また修正がなされている場合、それがどのような内容なのかについて調査する所存である。他方、シンカル村でも引き続き、乳製品加工の協同組合づくりの調査を行うことで、在来文化に即して①市場経済化を推進するという、ブータンの内発的発展政策をめぐる成果と課題について考察を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
2019年度には上記の通り、新型コロナウイルスの感染拡大で現地調査ができなかったため、予算の一部を次年度に繰り越すことになった。本報告書の執筆時点では(2020年5月後半)事態解決の見通しが立っておらず、ブータン政府が査証発行を再開する目途も立っていない。そこで年度後半に現地調査の計画を立てておくとともに、2019年度同様、現地の研究者ともに共同研究を年度初めから進めていきたい。すでにブータンの内発的発展政策の来歴を検証する論文の共同執筆を始めており、2020年度に仕上げる所存である。
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