2021 Fiscal Year Research-status Report
ブータンの発展政策の実証的研究を通した内発的発展論の再検討
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17K02056
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
真崎 克彦 甲南大学, マネジメント創造学部, 教授 (30365837)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 地域研究 / ブータン王国 / 内発的発展 / 市場経済 / 自由民主主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、村落生活を重んじる在来文化に即して①市場経済化と②自由民主主義を推進するという、ブータンの内発的発展政策の検証に取り組んできた。 ①については、中部のシンカル村の乳業協同組合についての論文(英語)を刊行した。「コミュニティ経済」概念を参照しながら、いかに住民の協同性を基盤として協同組合が立ち上げられ、経済振興が進んだのかについての論考である。組合は市場開拓に成功し、各世帯の所得向上に寄与したが、その背景には、組合員(住民)どうしの互助を通して組合が利益率を上げてきたという事情がある。また、余剰の乳製品が祭事に供されることもあり、そうした組合による協同性の発揚が、村落生活の軸である祭事を尊ぶ組合員にとって活動推進の動機付けともなってきた。 さらには、シンカル村の乳業協同組合の記録映像も作成した。同国でも昨今、市場経済を個々人による自己利益追求の場と見なす風潮が高まっており、経済格差や環境問題が課題となっている。そうした中、市場経済を人の生活・生存を支える場としてとらえ直すとともに、その振興に地域の協同性で取り組む「コミュニティ経済」概念は、経済政策に取り込まれるべきではないだろうか。そうした観点から政策提言を行うためである。 ②についても論文を刊行した。ブータンの統治の根本原理である国民総幸福(GNH)政策は個人の自由・権利を制限する、としばしば批判される。たしかにGNH政策では、近代的な個人の自律は唱えられない。しかし、それは人どうしや人と自然の関係性を重んじようとする立場からである。個人の自由・権利を制限することを念頭にしているのではない。上記のようなGNH批判には、統治のあり方の多文化性を尊重する姿勢が欠けている。ブータン独自の内発的発展政策の狙いを斟酌した上で、考察を進めるべきである。こうした観点に立った論文である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルスの感染拡大でブータン政府が査証発給を停止し、令和3年度も前年度同様、ブータンに渡航することができなかった。そのため、シンカル村で予定していた①市場経済化の現地調査、ならびに首都ティンプーでの②自由民主主義についての現地調査を実施できなかった。ただし、そうした制約のもとでも、上記の「研究実績の概要」で述べた成果を上げることができたので、それらを踏まえて「(2)おおむね順調に進展している」と区分している。 また上記以外にも、現地調査に赴けない中、文献調査に依拠した論文執筆に取り組み、別の2篇の論文を刊行することができた。双方とも、GNH政策と脱成長論を比較検討する論文である。脱成長論が経済成長の追求を射程外に置くのに対して、GNH政策はそうした画一的発想に立たず、国の歴史や風土に根ざした内発的発展の追求と、成長追求との間に折り合いをつけようとする。もちろん、成長追求が利潤や経済開発への関心に片寄ってしまうと、内発的発展の推進を阻害してしまう。同時にブータンでは、地元の歴史や風土に即した自律的な生活空間づくりに向けて、成長(モノ・サービスの生産規模の拡大)を図ろうとする独自のアプローチが採られている。2篇の論文の内、1篇ではそうしたアプローチがブータンの内発的発展の成否にとっていかに大切であるのかを分析し、もう1篇ではブータンの経済開発政策を取り上げて、同国の内発的発展の追求をさらに精緻化するための提言を展開している。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度には前年度に引き続き、上記の通り、新型コロナウイルスの感染拡大で現地調査を行えなかった。そのため事業期間の2度目の延長を申請し、予算の残額を令和4年度に繰り越すこととなった。ただし、その残額も現地調査を行うには十分ではない。そこで令和4年度には本研究のこれまでの成果を踏まえながら、さらに2篇の政策提言の論文を執筆することに専念したい。シンカル村のような協同組合活動をブータン各地に広めるための方策を考察する論文、そして、持続可能な開発目標(SDGs)を推進する上で、ブータンの内発的発展政策から得られる教訓を探る論文である。そのために予算は主として、文献資料の入手とオンライン型の実地調査の実施に活用したい。
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Causes of Carryover |
上述の通り、令和3年度に新型コロナウイルスの感染拡大で現地調査ができなかったためである。そこで事業期間の2度目の延長を申請し、予算の残額を令和4年度に繰り越すことを認めていただいた。「今後の研究の推進方策」に記したように、本研究の集大成として政策提言を行うべく、論文2篇の執筆を計画している。そのための経費として、最終年度予算を活用していきたい。
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