2018 Fiscal Year Research-status Report
Ethnic Problems and Limit of Democracy in India
Project/Area Number |
17K02063
|
Research Institution | Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization |
Principal Investigator |
近藤 則夫 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センター南アジア研究グループ, 研究員 (90450452)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 国家統合 / シッキム / ダージリン / ネパール人 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度も引き続き周辺地域の調査・研究を行った。現地調査では12月に北東部のシッキム州の州都ガントクおよび西ベンガル州ダージリンを訪れ関係者や現地の研究者と面談した。両地域に共通するエスニック問題の要因はイギリス植民地時代からのネパール系住民の流入である。ネパール系住民は両地域で独立時に人口多数派を形成しているが、シッキムではエスニック問題の先鋭化は回避されているのに対してダージリンでは1980年代以降暴力的な紛争が起き現在も政治は安定しない。なぜそのような違いとなったのか、現地調査および文献資料調査、両地域の人口データなどに基づき暫定的成果を、近藤則夫 [2019年3月] 「インドのダージリンとシッキムにおけるエスニシティと政治:ネパール人を軸として」(中溝和弥・中村沙絵・拓徹(編)『南アジアにおける民主政治と国際関係』人間文化研究機構(NIHU)地域研究推進事業 南アジア地域研究 京都大学中心拠点 研究グループ2 成果報告集(pp. 1-17 /124))、としてまとめた。 またインドの国家統合に重大な問題を投げかけているもう一つの重要な地域であるカシミールについては、紛争が散発的に起きており入域が難しいこともあって、文献調査が中心であった。カシミール・ムスリムの中心的指導者であるシェイク・アブッドゥラーや中央から派遣された知事の手記など諸資料を読解することで自治、紛争に関してどのようなやり取りがあったのか調査することに重点をおいた。 最後に歴代、中央政府指導者が周辺部のエスニック問題・国家統合にどのように対処したかを調べるために、ジャワハルラール・ネルー首相によって発せられた州の首相に対する指示・メモなどの資料の解析も進めた。議会制民主主義を高く掲げたネルー首相であるが、こと、国家統合に関してはかなり強引な姿勢をとったことが資料的に浮かび上る。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
インドの民主主義体制内で少数エスニック集団の国家統合がどのように行われてきたか探るため、地域的、政治的に周辺部に位置づけられる北東部地域とカシミール地域の比較、社会的に疎外されたムスリムの現状把握、さらに国家統合の中心となる中央政府の対応、これらを実証的に分析し、まとめて本研究課題にこたえることが最終的な目的であるが、やはりまず個々の問題自体が非常に大きな問題領域であることが痛感される。これが遅れの最大の原因である。 それでも北東部については現地調査、文献資料読解、人口データの点検などによって研究は一定程度進んだ。しかし、カシミールについては暴力的紛争が散発的に起こっており、現地に入ることがなかなか困難であり、紛争の実態、特に人々が中央政府に対してどのような考えを抱いているかなど、実態把握が難しい。これが研究の限界、遅れの大きな原因となっている。 さらに研究を進めていくうちにインドではやはり膨大な関連資料が存在することが判明し、その読解や解析にも多大な時間がかかることが判明した。関連して、研究作業の一環として、中央政府レベルで国民統合にかかわり実際どのような政策決定がおこなわれてきたか実証的に探るため、歴代首相の発言集を電子化し、一種のデータ・ベース化する作業を進めており、ネルー首相、インディラ・ガンディー首相、ナラシンハ・ラーオ首相についてはかなり作業が進んだ。しかし、他の首相についてはまだ手付かずである。独立後の主要な首相の発言集の電子化が終われば、中央政府がどのような政策決定を行ってきたかを効率的に跡付けることができると期待されるが、入力作業が完了していないことが、研究の進展を遅らせている。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまで研究を進めてみて、大きなボトルネックは2点あることが痛感された。一つは、カシミールの調査・研究である。カシミールはインド民主主義体制の最大の問題領域であり、多くの文献資料、研究成果が出ているとはいえ、問題状況は現在進行形で変化している。しかも、暴力的紛争がしばしば起こっており、そのため当初の予想に反して、入域が難しく、実態を把握することが困難である。 また、もう一点は研究課題全体の大きさである。北東部とムスリム多住地域のカシミールの紛争の問題構造の比較、そして2つの地域を国家の中に統合しようとする中央政府の政策決定過程、これらの研究を相互に接合して最終的な研究目的に接近することが大きな狙いであったが、しかし、実証的に意味のある研究成果を上げるためには資料の多さ複雑さが大きな負担となっている。 これらの問題点を考えると、今後研究をまとまりのあるものとするためには、現地調査が困難なカシミールを研究対象から外し、北東部と中央政府の関係を国民統合という観点からまとめることに研究対象を縮小することを検討したい。また上述の歴代首相発言集の電子化を完成させることで、中央政府の政策決定の分析をスピードアップさせたい。これらの方策によって研究対象は縮小するが、まとまりのある成果につなげたい。
|
Causes of Carryover |
歴代首相の発言集の電子化にアルバイトを使用する予定であったが、スキャナーと電子化ソフト(OCR)の使用により、自分で入力作業を行った。これにより、人件費が未使用となったため、次年度使用額が生じた。この次年度使用額は次年度の予算と合わせて旅費として使用させていただく予定である。
|