2019 Fiscal Year Research-status Report
Ethnic Problems and Limit of Democracy in India
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17K02063
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Research Institution | Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization |
Principal Investigator |
近藤 則夫 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センター南アジア研究グループ, 主任研究員 (90450452)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ミゾラム / 長老派教会 / アッサム / ボードー |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は北東部の調査に関してはミゾラム州の調査を8月に行った。8割以上がキリスト教徒のミゾラム州では、政治社会の安定には教会と市民団体、とりわけ長老派教会の役割が重要であるということが確認された。この州でもトライブやサブ・トライブの自治権問題、飲酒・ドラッグなど社会問題、政治の腐敗、経済停滞など様々な問題があるが、北東地域の他の州と比較して政治社会の混乱が相対的に低いレベルにあることが大きな特徴である。その最大の理由は、教会の役割が非常に大きいことである。例えば教会と関連NGOsは1986年の武装分離主義組織ミゾ・ナショナル・フロント(MNF)と政府との仲介で重要な役割りを演じたし、現在も選挙の不正の防止と監視のために組織的に活動を行っている。教会による人々への公正かつ平和的な選挙の訴えもあってミゾラムでの選挙は非常に静かで平和的で、ラウドスピーカーを大々的に使うような選挙キャンペーンはあまりないと言われる。また州会議派の説明として党の選挙綱領が正式なものになる過程で主要教会の承認を得ているというのは驚かされた。以上は文献研究ではよくわからなかった点であり、現地調査の意義はあったと思われる。 文献研究では、北東部の重層的で複雑なエスニック問題に接近するべく北東部諸州の一次資料を中心に読み込んだ。北東部で最大州であるアッサムについては独立後アッサム人に対抗して、丘陵部ではトライブの自治権運動が活発となり多く丘陵地域が分離して州を打ち立てた。また、平野部でもボードー民族が同じく独自州を設立する運動を徐々に激化してきた。これらトライブの運動の共通する特徴は、あくまでもインド国家の枠組み内で、アッサム州からの分離を目指している点である。この点において、インド国家からの分離を目指す他の分離主義運動とは様相が異なることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、インドのマージナルなエスニック集団と秩序(国家)形成という大きな問題を統一的に研究する予定であった。具体的には、カシミール地域と北東部の国民統合の様相の比較分析、疎外されているムスリムと他コミュニティとの比較分析などである。 ただし、まず第1にこの大きな問題は複雑に分岐し統一的フレームワーク内に収めることが難しいことがわかってきたこと、第2に、この大きな問題を扱う文献が膨大であること、第3にカシミール地域が紛争のため入域して十分な情報収集を行うことが難しくなったこと、などの理由から調査計画の手直しが必要となった。このような理由から、研究は去年度から北東部に集中して行うこととした。 しかしながら、「研究実施の概要」でも述べたように北東部のエスニック集団と政治秩序形成の問題でさえも統一的に扱うことが難しく、そのため統一的な概念的フレームワークの構築が難しくいまだ不十分であること、中央政府とこの地域の政治的交互作用を検証すべく行う予定の歴代首相の発言集の有効な活用がまだ十分にできていない。これらの理由から、遅れが生じている。 計画の延長が認められた最終年度はこれらの問題を乗り越えるべく、よりよい理論的フレームワークの構築のために比較政治学の知見を借りて再検討し、また、歴代首相の発言集の分析を十分に行い、課題に対処したい。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年3月から新型コロナウイルス騒動でインド全域が入国禁止となったことから、現在、現地調査の予定が立たない。しかし、封鎖が解除になった時点で、エスニック集団と政治秩序形成の問題についての現地調査を改めて実施し、現地の生の情報を収集したい。ただし、北東部州は入域が難しい地域もあるので、エスニック集団として現在岐路に立たされている宗教的少数派のムスリムの問題を把握するため、他地域への現調も視野に入れる。 また、歴代首相の発言集の電子化資料などを使い中央政府が北東部の統合やエスニック問題をどのように考えてきたか、さらに詳しく、時系列で検討する。また、周辺部のエスニック問題を考える上ではエスニック集団の人口動態の把握が重要なポイントになるので、人口センサスを使って大まかに変動を把握したい。 以上の作業を行ったうえで成果をまとめたい。予定される成果は論考、「インドにおける中央政府と国境周辺部のエスニック集団の統合」(仮題)として取りまとめたい。
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Causes of Carryover |
2020年2月から3月にかけて、2019年度2回目のインドへの現地調査を予定していたが、新型コロナウイルス騒動でインド全域が入国禁止となったことから、不可能になった。そのため、その分の予算の執行ができなかったことが大きな理由である。2020年度、新型コロナウイルスの恐れがなくなり、インドによる封鎖措置が撤廃され、外国人の入国が認められるようになれば、現地調査を行いたい。現地調査が依然として不可能な状況が続く場合は、文献資料の購入、あるいは、今迄入力した関連電子文書分析のためのテキスト・マイニングを実施するためのソフトウエアの購入に使用したい。
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