2021 Fiscal Year Research-status Report
Ethnic Problems and Limit of Democracy in India
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17K02063
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Research Institution | Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization |
Principal Investigator |
近藤 則夫 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センター南アジア研究グループ, 主任研究員 (90450452)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | インド / 北東部 / 分離主義 / エスニック |
Outline of Annual Research Achievements |
新型コロナウイルスで現地調査が難しいなか、引き続き主として文献に基づき研究を行った。 インド民主主義は、北東部では限界に突き当たっていることは暴力的分離主義が存在することからも明らかである。本研究の目標の一つは、選挙と議会制という民主主義制度によって問題の解決ができるのか否か、分析することである。独立以来この地域には州、特別な自治体という形で高度な自治が付与され暴力的な分離主義を懐柔することによって地域の安定性を高めてきた。しかし、それは歪んだ形の連邦制をもたらしたとの批判がある。Bethany Lacinaの”The Problem of Political Stability in Northeast India: Local Ethnic Autocracy and the Rule of Law” (Asian Survey (2009) 49 (6))、木村真希子氏の『終わりなき暴力とエスニック紛争:インド北東部の国内避難民』(慶應義塾大学出版会 (2021))などはその点を批判した論考である。特に木村氏は「うわべだけの連邦制」と「地方のエスクック専制者」の組み合わせが、北東部で民主主義の発展を阻害し、腐敗、暴力など様々な問題を生み出していると批判した。これらの論者は、高度な自治制度が付与されただけでは民主主義はうまく機能しないと強調するのが特徴である。 しかし、新聞、雑誌、関連文献をベースとする本年の研究によれば、「うわべだけの連邦制」と「地方のエスニック専制者」の組み合わせは、必ずしも永続的でないことを示しえた。なぜなら、確かにそのような歪んだ体制は中央政府と実力ある地方勢力との間の政治取引として成立はするが、結局、選挙の洗礼を受けなければならず、何回かの選挙を経て一定の正常化に向かうことが観察されるからである。主としてこのような点を本年度に明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究は全体的に遅れている。この2年間、新型コロナウイルス禍のため現地には行けず、また、今までに収集した文献が膨大でその分析が遅れているからである。当初の計画では北東部地域に加えてジャンムー・カシミール地域も含めて、インド国家の周辺部で民主主義体制がどのような形で限界にぶち当たっているのか比較検討する予定であった。しかし、上述のように現地調査はこの2年はほぼ不可能となり、当初予定の最初の2年間で北東部を訪問した以外は、現地の人々、研究者とあって生の情報を得ることもできなくなった。 また研究をまとめるため研究対象を狭めてジャンムー・カシミールの問題を割愛することにしたが、しかし、北東地域に限っても問題が複雑かつ大きすぎて扱うべき文献・情報も膨大となることが分かった。この点も研究が遅れる理由となった。文献は主としてインドのデリーで収集し地域の政治史研究は集めることができたが、内容は大体1990年代までをカバーしているのみで、2000年代以降の情報はあまりない。筆者の勤務するアジア経済研究所の文献資料も大体状況は同じである。インターネットを通じて最新の研究論文、雑誌、統計資料などを利用することによって研究は資料的にかなり補えるが、十分ではない。特に最近はインド政府の選挙委員会のホームページが不調でデータを得られないなどの問題も発生している。以上のような、得られると考えていた資料がスムーズに得られないことも研究の進捗を妨げている要因である。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、インド民主主義の限界の事例である周辺部の北東地方の事例に集中して文献、過去の選挙統計データなどを見ており、分析はこの地域を対象として、インド連邦制の歪み、そして、そのような歪んだ連邦制の中で北東部の州、自治体を牛耳る政治勢力がどのように体制に適合してきたかを検討しまとめることを具体的な目標としている。研究期間はあと1年しか残っていないので、このように焦点を絞って論文としてまとめたい。その際、木村真希子氏の『終わりなき暴力とエスニック紛争:インド北東部の国内避難民』(慶應義塾大学出版会 (2021))を一つの手がかりとして問題に接近したい。 研究プロセスとしては、新型コロナウイルス禍により、2022年度もインドへの渡航は難しいことが予想されるので、文献資料、選挙など統計資料などを使って研究をまとめていきたい。懸念はインド政府の選挙委員会のホームページが長期にわたり不調でオーソライズされた選挙データが得られるのかどうか不安な点である。選挙委員会のデータを得られず、北東地域の選挙政治の量的分析が難しい場合は、文献資料に基づいて叙述的な分析を主にまとめたい。
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Causes of Carryover |
2020年2月以降、新型コロナウイルスの感染拡大が生じ、インドに行けない状況が続き2021年度の予算執行を実際上行えなかったため。 2022年度も新型コロナウイルス禍は完全に治まらず、インドに現地調査へ行けるかどうか不明なため、残りの予算は文献資料、統計分析のためのソフトウェアなどの購入に当てたい。資料に関しては北東部の世論調査データがありそれが有料であればその購入に充てたい。また必要な文献、特に連邦制やエスニック・民族問題に関する理論的文献を購入したい。ソフトウェアに関しては共分散分析用のソフトであるAmosの最新バージョンを購入したい。
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