2018 Fiscal Year Research-status Report
Climate Change and Gender - Resilience building and women's empowerment in Timor-Leste
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17K02090
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Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
古沢 希代子 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (80308296)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 気候変動 / 自然災害 / レジリエンス / 社会開発 / ジェンダー / 女性のエンパワーメント |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の成果は以下の三つである。 一つは、東ティモールから気候変動及び自然災害に対する女性のエンパワーメントに関する実践者(国際NGO Plan International Timor-Leste ジェンダーアドバイザー)を日本に招聘し、講演会と研究交流を実施したことである。講演会は研究代表者の勤務校で実施され、一般公開された。講演会では、日常におけるジェンダー関係やジェンダー役割が女性を「災害弱者」にしている状況が述べられ、日常生活、防災、被災時を通じた「Gender Tranformative アプローチ」の取り組みが紹介された。研究交流では、当該分野を専門とする国際開発コンサルタントを交えて研究会を行い、ネパールにおけるジェンダーによる脆弱性と適応能力向上に関する研究、「仙台防災枠組み2015-2030 」、男女共同参画と災害・復興ネットワーク(JWNDRR)の取り組みについて学んだ。 二つ目は、東ティモールの気候変動に関する観測及び研究の状況を、FAO(国連食料農業機構)やGCCA(EUの機関であるグローバル気候変動連合)への訪問を通じて把握した。海水温の上昇も観測されていたため、Planを通じアタウロ島で魚・貝・海藻採りに従事する女性たちに海洋生態系への影響を確認した。同島では生業多角化のため農業と観光業の振興が急務となっているが、農業には水が必要であり、山間部での水源復旧の取り組みが開始されている。 三つ目は、レジリエンス構築のための社会開発として柱の一つとなる水利組織や行政の体制に関する調査である。二地域での調査を継続し、維持管理における多層的課題を分析した。新たな知見としては、ボボナロ県マリアナにおける多様な水源及び水利用の存在と課題、マヌファヒ県ベタノにおける湧水池からの水道事業での維持管理問題(故障がちなポンプ場機器を女性たちは修理できない)である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東ティモールから招聘した実践者は、国際NGO、Plan International Timor-Lesteでジェンダーアドバイザーを務めるベテランであった。彼女との研究交流により、気候変動及び自然災害に対する女性のエンパワーメントに取り組むPlanのジェンダーに関する問題意識、実践、課題について知見を深めることができた。また、Planを含め国際NGO諸団体が共同で実施した調査やそれら団体と東ティモール政府(農水省)が共同で実施した調査の成果にアクセスすることができた。また、日本における専門家との交流を通じて、他国での取り組み、東日本大震災後の日本における取り組み、そして、国際社会の動向をつかみ、東ティモールの状況、実践、課題を国際的な枠組みの中に位置付けることが可能となった。 東ティモールにおける気象データについては、東ティモール農水省統計局農業気象課に調査地域のデータ提供を要請してきたが、一昨年来の政治混乱による予算の確保及び執行の遅れがあり、観測機器の不具合等により一部データのアクセスに困難が生じている。同局へは提供されたデータをどのように利用しているか報告を提出している。利用の一例としては、川の増水で灌漑施設が損壊する地域の降雨パターン(南岸平野部では雨期のピークが二回ある)や外国援助プロジェクトが雨期作米作付の早期化を推進している地域の降雨の変動を把握し、かつ、現地関係者(農水省県事務所など)とシェアすることである。 本研究課題に関して、論文の作成には至っていないが、市民団体のニューズレターと東京女子大学の学会ニュースに合計4本の報告記事を執筆した。また、現地調査に関してFacebookを通じてテトゥン語と英語で発信している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は最終年度であるため、収取した資料やデータの読解と分析に努めたい。 現地調査は2-3回予定している。2015年3月に仙台で開催された第3回国連防災世界会議で採択された「仙台行動枠組み」は、ジェンダーと多様性の視点からの防災や復興を提唱しているが、データの収集、収集されたデータの活用、政府と地域の連携、計画や実施段階での参画の推進、参画のための能力強化と課題は多い。今年度は、国際・外国援助機関、政府の所管省庁、地方行政、CBOを縦断し、東ティモール全体の防災・減災体制と女性の参画に関する政策に関する全体像を把握し、国際的目標や動向のなかに位置付ける。 防災・減災分野に女性のプレゼンスが小さい原因は、社会開発におけるインフラ分野(建設と維持管理)での住民と女性の参画が限られていることと関連していると考えられるため、本研究は、平時の社会開発における「インフラとジェンダー」を意識した研究となっている。そのため、最終年度の現地調査には、レジリエンス強化のためにGender Transformativeなインフラ建設を行った現場の視察を組み込む。また、今年度から開始した灌漑施設の設計及び維持管理に関する議会の所管委員会の女性委員長及び農水省の女性官僚との対話を継続する。研究の最終目標としては、気候変動へのレジリエンス構築におけるPractical Gender Needs(実際的ジェンダーニーズ)とStrategic Gender Needs(戦略的ジェンダーニーズ)を区別し、かつ、両者の関連を考察することを通じて、Gender Transformativeなアプローチの構想と実践の意義と課題を明らかにしたい。
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