2019 Fiscal Year Research-status Report
戦争と観光――戦前期「満洲」における戦跡ツーリズムに関する歴史的研究
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17K02125
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
高 媛 駒澤大学, グローバル・メディア・スタディーズ学部, 教授 (20453566)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 満洲 / 戦跡 / ツーリズム / 観光 / 帝国 / 戦争 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度は、国会図書館や、東京大学の明治新聞雑誌文庫、国際日本文化研究センター、国家図書館(中国北京市)、国立台湾大学図書館(台湾台北市)などにおいて、満洲の戦跡ツーリズムに関する文献資料を調査した。 上記の資料調査と並行して、令和元年4月に、戦前の満洲で発行されていた旅行雑誌『旅行満洲』の復刻版の解説論文「満洲国時代の旅行文化の一断面――『旅行満洲』を読む」を書き上げた。その内容は、現時点で確認できている『旅行満洲』全107冊をもとに、発行者であるジャパン・ツーリスト・ビューロー大連支部と南満洲鉄道株式会社(以下「満鉄」)との関係や、編集者の顔ぶれ、誌面構成の特徴、紙面内容の展開、および在満日本人読者の反応といったさまざまな側面から、『旅行満洲』の全容に迫るものである。同論文は『「旅行満洲」解説・総目次・索引』(不二出版)に収録されている。 4月より、国際日本文化研究センター主催の共同研究「帝国のはざまを生きる――帝国日本と東アジアにおける移民・旅行と文化表象」に加わり、数回研究会に出席している。また、研究会に出席する際に、合せて同センターの図書館で満洲関係の史料の閲覧・調査を行った。 12月に、立教大学で開催されたシンポジウム「帝国日本の鉄道と観光」において、「戦前における日本人学生の満洲旅行」と題して口頭発表を行った。本発表は、日本人学生の満洲旅行の歴史的経緯をふまえたうえで、学生旅行を誘致する満鉄、および彼らを歓迎する在満日本人同郷者ネットワークの存在を明らかにしたものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和元年度は、これまで収集してきた史料を整理しながら、満洲戦跡保存会をはじめとする団体の活動内容や、戦跡の観光化を推進した中心人物の経歴、および満洲における日本、中国、ロシアの各戦跡の観光化過程の歴史的経緯などを明らかにしてきた。 ただし、中国や台湾での調査を通して出会った新資料を精査しているうちに、戦跡観光を含む満洲ツーリズムは当時の日本人社会だけでなく、中国人社会や在満日本人社会にも影響を与えたことに関して、広く目を配る必要があることに思い至った。この視点のもと、前述した立教大学で開催されたシンポジウムで基本的な考察をまとめた発表を行った。 海外の研究機関に所蔵されている満洲時代の資料は質・量ともに豊富であるものの、公開が制限されていることがあるため、これまで調査できたのは、ほんの一部に過ぎない。同時に、古書店などの研究機関や図書館以外の入手ルートでは、系統立った資料収集を行うことが困難であるため、どうしても資料収集に時間を要することとなってしまっている。今後、引き続き補足調査を行いながら、満洲観光を取り巻く日本人社会、中国人社会、および在満日本人社会の三者の関係性について、さらに考察を深める必要があると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
令和二年度は、これまで明らかにしてきた満洲戦跡観光の個々の歴史的な経緯をふまえたうえで、旅行を実施する日本人旅行者だけでなく、満洲ツーリズムを取り巻く中国人社会や在満日本人社会との関係性についても考察を深めることを考えている。 具体的には、中国語の新聞や雑誌記事を手がかりに、中国人社会が日本人の満洲戦跡旅行に対してどのように受け止めていたかを考察する。また、満洲における日本人同郷者ネットワークや同窓会の活動を追うことで、日本人の満洲旅行と在満日本人社会との連動関係を明らかにしていく。 令和二年11月頃、国際日本文化研究センター主催の「帝国のはざまを生きる――帝国日本と東アジアにおける移民・旅行と文化表象」と題する研究会で、戦前における日本人の満洲ツーリズムが中国人社会に及ぼした影響について報告する予定である。 12月頃、前年度の12月に立教大学で開催された、「帝国日本の鉄道と観光」と題するシンポジウムでの口頭発表をもとに、日本人学生の満洲観光と在満日本人社会との連動作用、および満洲戦跡観光が日本の学校教育に与えた影響について論文をまとめる計画である。この論文は、このシンポジウムの発表をまとめた1冊の書籍として、他の研究者の方々と共著で出版されることとなっている。 上記をふまえ、令和二年度末までには、満洲における戦跡ツーリズムについての論考を仕上げる予定である。
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Causes of Carryover |
令和二年度の使用額が生じた理由は、令和元年度の使用額をある程度抑えることにより、令和二年度の史料購入代や調査旅費などを確保したためである。満洲旅行関係の史料は、日本と海外の各研究機関や図書館に散在しており、また紙の劣化や著作権保護などにより一部公開が制限されることがしばしばある。したがって、古書店など研究機関や図書館以外の入手ルートを探ることや、研究機関や図書館を複数ヶ所訪れて、補足調査を行う必要があると考える。 使用計画として、まず、日本や中国の古書店などで、日本語と中国語で書かれた満洲旅行関係の史料を購入する予定である。その多くは現存の研究機関や図書館では所蔵されていない貴重な資料であるため、高価な場合が多い。 次に、国内と海外の研究機関や図書館などで補足調査を実施する予定である。事前に関連資料の有無や貸借可能かどうかを問合せたうえ、海外も含め現地に出向いて閲覧したり、遠隔複写サービスを利用したりするなど、さまざまな方法を講じながら満洲旅行関係の史料を整備していく考えである。特に中国本土には、関心のある貴重な資料が複数存在するので、優先的に資料を収集することを計画している。
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