2019 Fiscal Year Research-status Report
現象学的方法による観光の倫理的問題の明確化―観光倫理学の構築にむけて
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17K02145
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Research Institution | Hyogo University of Health Sciences |
Principal Investigator |
紀平 知樹 兵庫医療大学, 共通教育センター, 教授 (70346154)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 現象学 / 意志行為 / 創造的なかくなれ(fiat) |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は前年度に引き続き観光経験を現象学的に記述するための方法論に関する文献調査を主として行った。 その成果として観光学術学会第8回研究大会(大分県別府市立命館アジア太平洋大学 7月7日)で「観光経験と意味の再創造――意志行為の現象学の観点から」というタイトルで発表を行った。また『フッサール研究』第17号に「観光経験の現象学的考察」(1-17頁)という論文を発表した。 上記2つの研究成果においては、フッサールの「意志行為の現象学」における議論を参照しながら、観光経験を現象学的に解明する試みを行っている。観光経験を意志行為の現象学という観点から考察したものはこれまで先行研究においても見当たらず、観光経験の現象学的考察に1つの視点を与えたといえるだろう。また、フッサールによれば、意志行為は創造的な行為、「創造的なかくなれ(fiat)」という特質を持つとされることを踏まえて、観光経験における創造的な側面を意味の再創造として捉えることができるということを明らかにした。こうした2つの成果は観光の現象学ということを考察する上で、非常に重要な観点である。 他方、観光を意志行為として考えることの限界も上記の考察から明らかになった。すなわち、フッサールの意志行為の記述の枠組みは、いわゆる志向-充実という図式を前提としており、ある種の真理を前提にしている。しかし観光経験においてそうした真理を前提とするような枠組みが適切であろうか。言い換えるならこれは、観光経験の問題をフッサール流の基礎づけ主義的な観点から考察することが適切かどうかという問題であると考える。このような限界を見据えられたことも、研究成果のひとつではあろうが、次にこの限界をどのように克服するかということを考察する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題は、計画では2019年度で終了する予定であった。しかし研究計画を1年延長することとなった。その理由は以下の通りである。 本研究課題は現象学的方法を用いて観光の倫理的問題を明らかにすることを目指したものである。そこで、観光経験を現象学的に解明していく必要があるが、そのための理論的整備に時間を要してしまった。2019年度の研究では、意志行為の現象学を観光経験に適用することで現象学的分析を進める可能性を見いだした。しかし、観光経験は必ずしも意志行為のみではないということも同時に明らかになった。また、意志行為の現象学という枠組みでは、フッサールの志向ー充実という図式を前提にしなければならないが、そうした図式が適用できない観光経験も存在することも明らかになった。 従って、多様な観光経験を扱うのにフッサールの現象学のみでは不十分であることがあきらかになったことが延長の大きな理由である。 また所属機関での役職上の変化により、当初予定していたような研究時間を十分にとることができなかったことも研究が遅れた理由のひとつである。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の研究を通じて、フッサール現象学を観光経験に適用する際の限界を一定程度認識することができた。本研究課題は研究機関を1年延長し2020年度が最終年度となる。この1年で他の現象学的分析を用いて観光経験全般に関する解明を行うことは時間的に困難である。従って本研究課題ではフッサールの枠組みで分析できる観光経験を俎上に載せて考察する。今後の研究の推進に向けては以下のような方策を考えている。 (1)志向-充実というフッサールの分析枠組みが適用できる観光経験の類型を明らかにすること。 (2)そうした観光経験において何が倫理的問題となるかを明らかにする。 こうした考察を進めていく。必要に応じてこれまで行ってきたインタビューを分析し、その中で深く掘り下げるべき論点があれば、再度インタビューを行うことも考えるが、今般の状況ではオンラインで、プライバシーの保護に配慮しながら行うことが考えられる。
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Causes of Carryover |
計画では観光地に関するフィールドワークやインタビュー調査を予定していたが、計画通り実施できなかったため、次年度使用額が生じた。今般の状況では、フィールドワークや対面でのインタビューは困難であり、これまで行ったインタビューをさらに深く考察するなどして研究を進めたい。そのために質的データ分析ソフトなどを購入し、インタビューを多角的に分析することを行う。
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Research Products
(2 results)