2020 Fiscal Year Research-status Report
現象学的方法による観光の倫理的問題の明確化―観光倫理学の構築にむけて
Project/Area Number |
17K02145
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
紀平 知樹 兵庫県立大学, 看護学部, 教授 (70346154)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 観光倫理学 / 現象学 / 応用倫理学 / 原則主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、新型コロナウイルス感染症のもと、フィールドワークを行うことが困難になり、ふたつの面から文献調査を行った。ひとつは応用倫理学からの観光に関する考察であり、他方では現象学的観点からの観光に関する考察である。 すでに、海外においては観光倫理学の研究は進展しているが、それは生命倫理学をモデルとした原則主義的な倫理として展開されている。我が国で観光倫理学に関する考察を行っている文献においても、そうした原則主義的な立場からの観光倫理学を提案しているものが多い。しかし、すでに生命倫理学においても原則主義的なあり方は批判があり、原則主義に対して臨床倫理が提案されている。そしてまた実際の臨床現場でも、臨床倫理を用いた倫理問題に関する検討が浸透していっている。 観光という現象を考えた場合、古典的にはホストーゲスト関係を基軸に考察をすすめることが多かったが、現在では、観光においてホストーゲスト関係はそれほど強固な基盤ではなくなりつつあり、観光という現象自体を捉え直す作業が必要になってきているし、そうした現象に対して原則主義を当てはめて問題解決を図ることは困難であるということが文献調査の結果明らかになってきた。そうした応用倫理学的な調査研究の成果として、『3STEP 環境倫理学』(吉永明弘、寺本剛編、昭和堂)で「エコツーリズムと環境倫理:環境と観光の交差点から」を分担執筆した。 観光そのものの捉え直しとしては、これまでの現象学的観点からの考察を過年度に引き続き行っている。これまでは主としてフッサール現象学の立場から観光経験に関する考察を行ってきたが、2020年度は、もうひとりの有力な現象学者であるハイデガーの立場からの考察に着手した。彼の「ギリシア紀行」という旅行記の読解に着手している。この紀行文を彼の思索の中にどのように位置づけるのかということが今後の検討課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度はコロナ禍の影響によりフィールドワークが困難になり、計画していた調査や資料収集ができなかったことが大きな原因である。しかしながら、文献調査は引き続き行っており、その面では計画は順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度も引き続き新型コロナウイルス感染症の影響は避けられず、フィールドワークなどは難しいことも予想される。そこで理論研究を中心に、本研究課題の総括を行っていきたいと思う。これまでの研究の蓄積の中で、フッサール現象学の立場から観光経験に関する分析を行う道筋は見えてきているので、それを確立し、そうした分析が持つ可能性と限界を明確に示したいと思う。 また、観光経験の分析を通して、その経験に含まれる「倫理的なもの」を明確にすることをすすめる。そしてそれが倫理学的問題の基盤であることを示すことによって、本研究の総括を行いたいと思う。
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Causes of Carryover |
主としてフィールドワークや学会参加などの出張旅費として見込んでいた予算が、新型コロナウイルスの感染状況によって移動の制限が生じたため、使用できなかった。2021年度も状況は引き続き厳しく、研究の方針も変更が必要であり、文献研究のための資料収集に支出したいと思う。
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Research Products
(1 results)
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[Book] 環境倫理学2020
Author(s)
吉永明弘、寺本剛
Total Pages
259
Publisher
昭和堂
ISBN
9784812219348