2017 Fiscal Year Research-status Report
Bergson's Modal Metaphysics
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17K02158
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
村山 達也 東北大学, 文学研究科, 准教授 (50596161)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ベルクソン / 『物質と記憶』 / 潜在性 / 『道徳と宗教の二源泉』 / 創造 / 感情 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度の前半は、前年度の国際シンポジウムで行なった英語発表を日本語で論文にする作業に主に従事した。これは「潜在性とその虚像――ベルクソン『物質と記憶』における潜在性概念」として、共著『ベルクソン『物質と記憶』を診断する』に収められている。発表自体は本科研が始まる前になされたものだが、本科研を着想するきっかけになったほどに内容は密接に関係しており、また、論文化に際して、2017年度に入ってからの研究成果を盛り込んである。この論文では、ベルクソン『物質と記憶』における潜在性概念は「可能性」か「意識に現前していないあり方」のどちらかの意味で使われていること、それゆえ、この点におけるドゥルーズの解釈(「潜在性」を「創造性」と極めて似通った意味で取る解釈)は誤りであることを明確に示した。 2017年度の後半は、いま触れた「創造」概念の解明の一環として、ベルクソン『道徳と宗教の二源泉』における感情と創造との繋がりを考察した。これは、東北哲学会でのシンポジウム「感情と認識――二〇世紀前半のフランス哲学の観点から」での提題として発表し、「自足した愛の曖昧な対象――ベルクソンの道徳論における」という題の論文にまとめてあり、同学会の年報に掲載予定である。ここでは、道徳における創造を語るうえで、ベルクソンが芸術における創造とのアナロジーをどう用いているかを分析し、道徳における創造の起源には感情があるとベルクソンが考えていること、また、その感情は志向的対象を必ずしももたず、かつ、その感情のあり方は、感情を引き起こした認知内容には拘束されておらず、かつ、その感情は、当該の感情を原動力にして生み出された行為や作品を通じて他の人に伝達されうる、とベルクソンが考えていたことを明らかにした。なお、創造概念についてのこの考察は、ベルクソンの可能性概念を解明するうえでの準備作業という一面ももっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年度の前半については当初の計画通りに進んでいる。特に、「潜在性」概念は、ドゥルーズの『ベルクソン哲学』の影響もあって、ベルクソンにおける様相概念としてほとんど唯一と言っていいほど注目を集めてきた概念であり、これまでのベルクソン解釈において論じられてきた割合は甚大なものがある。つまりは、この概念の解釈がゆがんでいる場合の、ベルクソン哲学全体の解釈に及ぼす影響は、とても大きいのである。その潜在性概念をいわば毒抜きし、テキストに即して明確化しえたことは、ベルクソンの様相概念を総合的に論じようとする本研究にとって極めて重要なことであったと言える。 2017年度の後半は、当初は可能性概念について考察する予定であったが、シンポジウムのオーガナイズと提題を行なったこともあり、予定を変更して、創造概念を扱うこととした。そのため、当初の予定とは若干の変化があるが、全体的に見たときの進捗としては順調であると言える。とりわけ、「可能性を前提としない創造」という、ベルクソン固有の可能性概念と創造概念とを解明するうえで、初年度において創造概念の一定の明確化を果たしておけたことには大きな意義がある。 文献等の収集については、日本語、英語、フランス語の文献とも順調に進んでいる。 さらに、2018年度の7月ないし8月に予定している国際ワークショップについても、人選、発表の依頼、日程と場所の確定など、共同開催者と話し合いつつ順調に進んでいる。 以上より、総合的に言って、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
ほぼ当初の計画通りに進めるつもりであるが、上記の変更点(2017年度に創造概念を論じたこと)に合わせて、いくつかの予定を変更することになる。 まず、当初の予定では、2017年度に可能性概念を検討し、2018年度には必然性概念のみを検討する予定であった。これを変更し、2018年度に、どちらの概念についても検討を行なうこととする。ただし、ベルクソンにおける必然性概念の二つの側面――自由論の文脈で語られるときの必然性と、認識論・真理論の文脈で語られるときの必然性――のうち、当初の予定では両方を扱う予定であったが、計画に変更があったときの対策として申請書に書いたとおり、前者のみを扱うこととする。これが前半の予定であり、より具体的には、ベルクソンの自由概念を、主に『意識の直接与件についての試論』を読解することを通じて明晰に取り出し、そこになおも(ある種の)必然性を語りうるとしたらいかにしてか、という問いを扱う。これは、上記の国際ワークショップで発表する予定である。 本年度の後半には、ベルクソン『思考と動くもの』に所収の論文「可能的なものと現実的なもの」を中心に、ベルクソンにおける可能性概念を検討する。これも、2016年における国際シンポジウムでの発表で、分析のアイディアや概要だけは発表してあるものだが、本科研でのそれまでの成果や、他の著作の分析も踏まえつつ、より本格的に取り組むこととなる。 文献等の収集については当初の計画通りであり、基本書については既に揃えてあるので、その都度の必要に応じて購入することになる。 成果発表については、上記のとおり、本科研が主催する国際ワークショップで発表する予定である。また、その他に、日本のフランス哲学研究者を集めて研究会を開催し、そこでも発表を行なう予定である。
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Causes of Carryover |
2017年度の前半はサバティカルでイギリスに滞在していたため、国内での幾つかの学会への予定していた参加を取りやめた。また、書籍や雑誌論文についても、いくつかのものについて購入せずとも図書館などで利用できたか、インターネット上で合法的に入手することができた。 剰余分は2018年度に開催予定の国際ワークショップと国内研究会とに回し、それらを当初の予定よりも大きな規模・人数で開催して、本科研研究のいっそうの進展に寄与するよう使用する予定である。
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Research Products
(3 results)