2017 Fiscal Year Research-status Report
「存在論」とマテリアリズムの形成──二原理論的思考の帰趨
Project/Area Number |
17K02167
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中畑 正志 京都大学, 文学研究科, 教授 (60192671)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 存在 / 存在論 / イデア論 / あるというかぎりでのある / ontology |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、プラトンとアリストテレスを中心に「ある」(ギリシア語でon, einai)をめぐる思考の基本的あり方をあきらかにするとともに、その変遷をアリストテレス『形而上学』の重要箇所に対する代表的注解をたどることを通じて確認した。 1 「ある」ことをめぐるプラトンの最も基本的な理論であるイデア論はどのように構想されたのかを、その成立にかかわる古典的箇所と標準的な解釈を再検討し、ソクラテスの「何であるか」という問いとの関係、感覚知覚とイデアとの関わりなどについて、従来の解釈の問題を修正するより詳細な見解を提出した。「ある」という概念についていえば、イデアとは、真に「存在」するものというより、「何であるか」という問いに答える「まさに~であるもの」を基本的な意味としていることが再確認された。 2 ontology, Ontologieなどの近代語の語源であるラテン語ontologiaは、最初の用例が確認されるJ.Lorhardも、またongologiaという語を流通させたCh.Wolffも、アリストテレスの『形而上学』における「あるというかぎりでのあるものの探求」という知の構想を直接継承するものであることを確かめた。 3 この「あるというかぎりでのある」における「ある」の基本的な意味は、「~がある」という存在用法ではなく「~である」という繋辞的・述定的用法であることを、『形而上学』Γ巻1003b5-10の議論の詳細な分析を通じてあきらかにした。 4 他方で、当該箇所についての解釈の歴史をたどり、解釈史のうえで重要な役割を果たしたアレクサンドロスとトマス・アクィナスの注解を検討し、異なる仕方ではあるが、ともに「~がある」という存在としての意味を基本として解釈していることを示した。さらにとりわけトマスの解釈の方向は、現代の多くの注解においても採用されていることを指摘した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、「存在」の探求としての「存在論」の形成およびその形成過程に密接にかかわるマテリアリズムの成立を歴史的にたどることを目的としている。本年度は、通常は「存在」についての代表的な理論と考えられる二つの見解であるプラトンのイデア論およびアリストテレスの「あるというかぎりでのあるものの探求」を検討した。その考察を通じて、いずれの見解についても、「ある」を「存在」の概念を基本して理解する従来の解釈の問題点を確認し、それとは異なる理解を提示できたことは大きな成果であり、今後の研究の基礎を確立できた。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果をもとに、次の二つの作業をすすめる。 1 ontologiaという知の源泉であるアリストテレスの探求が実際には何を目指していたのかを、『形而上学』についての詳細な注解的作業を通じて、より全面的に明らかにする。 2 プラトンとアリストテレスの「ある」onをめぐる思考がどのように継承・変容されたのかを、ヘレニズム期の哲学、とりわけストア派を中心に確かめる。
|
Causes of Carryover |
購入を予定していた図書の刊行が延期されたために次年度使用額が生じた。次年度に刊行される予定なので、そのために使用する。
|
Research Products
(4 results)