2018 Fiscal Year Research-status Report
カントの平和論を現代の議論に接続し新たな提言を行うための理論的研究
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17K02168
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
舟場 保之 大阪大学, 文学研究科, 教授 (20379217)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 世界平和 / 諸国家連合 / 地域共同体 |
Outline of Annual Research Achievements |
カントの平和論がもつ理論的前提の有効性を測るために、「統合から分裂へ」という方向性をもつ議論とカントの平和論とを突き合わせた。この対質を通じて、「諸国家連合」(Voelkerbund)を正当化するカントの理論的前提が、世界平和の実現にとって脅威となりうる潮流を、なぜ、そしてどのようにして食い止める潜在力をもちうるのか、明らかにした。この営為によって、「諸国家連合」を範とする国連が世界平和にとって有意味な側面をもちうることを同時に示すことにもなった。 他方、機能不全に陥っている国連に代わり、どのような地域共同体がどのようにして、暫定的にではあるが可能な限り戦争を遠ざけるよう機能しているのかを検討した。地域共同体に関する知見をより深め、最終年度の第三の選択肢の提言につなげるため、すでに他のテーマで何度も共同研究を行ってきたルッツ=バッハマン教授をゲーテ大学(フランクフルト、ドイツ)に、ニーダーベルガー教授をデュースブルク‐エッセン大学(エッセン、ドイツ)に訪問し、いずれも集中的に共同討議を行った。 研究成果の一端として、第12回日独倫理学コロキウム(2018年9月5日、フランクフルト、ドイツ)において、Laesst sich nicht statt des negativen Surrogats die politische Idee der Weltrepublik waehlen?というタイトルの下、研究発表を行った。ここでは、カントが暗黙の裡に前提している事柄を斥けることによって、世界共和国を選択する可能性が生じるのではないか、という問題提起を行った。また、第6回大阪哲学ゼミナール(2018年9月17日‐20日、大阪大学)および日本カント協会第43回大会(2018年11月17日、香川大学)においても、科研費研究に密接に関連する研究発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、カントが「国際国家」ないし「世界共和国」ではなく「諸国家連合」を選択せざるを得なかった理論的前提を明確にし、この理論的前提をハーバーマスらの現代の平和論に接続することを通じて、そこにはいまなお有効な側面があることを明らかにすると同時に、現代的な視点を踏まえて、この理論的前提に必要な修正を施し、逆に現代の平和論によってまだ答えられていない問題に対して解決案を提示することを目指している。その営みは、「諸国家連合」か「国際国家」ないし「世界共和国」か、という二者択一を超えて第三の選択肢を示し、かつこの選択肢の現代における有効性を明らかにすることでもある。こうした研究目的を実現するにあたり、今年度は、まずカントの平和論がもつ理論的前提の有効性を測るために、「統合から分裂へ」という方向性をもつシュミットやホネットらの議論とカントの平和論とを突き合わせた。この対質を通じて、「諸国家連合」(Voelkerbund)を正当化するカントの理論的前提が、世界平和の実現にとって脅威となりうる潮流を、なぜ、そしてどのようにして食い止める潜在力をもちうるのか、明らかにした。この営為によって、「諸国家連合」を範とする国連が世界平和にとって有意味な側面をもちうることを同時に示すことにもなった。 しかし他方、機能不全に陥っている国連に代わり、どのような地域共同体がどのようにして、暫定的にではあるが可能な限り戦争を遠ざけるよう機能しているのかを検討した。地域共同体に関する知見をより深め、最終年度の第三の選択肢の提言につなげるため、ルッツ=バッハマンおよびニーダーベルガーと集中的に共同討議を行った。その結果、カントの理論的前提をアクチュアルな状況に適合させて修正を施すことに可能性を見出しうることが判明した。 これらの成果によって、本研究の目的である第三の選択肢の提言の準備は十分に整えられている。
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Strategy for Future Research Activity |
カントの平和論がもつ理論的前提に修正を加えることによって、カントの言葉で現存する地域共同体、たとえば欧州連合を正統化できるようになったが、しかし世界平和を実現するための第三の選択肢は、少なくとも現に存在する地域共同体というわけではない。 ハーバーマス、ルッツ=バッハマン、ニーダーベルガー、ブルンクホルストらの論考から明らかなように、実在する地域共同体は、欧州連合も含め、あくまで機能不全に陥っている国連の代わりを一時的に果たしているだけであり、このまま国連が十全に機能しないままであれば、「統合から分裂へ」という方向性が待ち受けていることは必定だからであり、そうした流れは、結局のところ地域共同体すら瓦解させるものであるからだ。 したがって、修正された理論的前提にもとづく第三の選択肢として、各地域共同体がそれぞれ相互に独立したままではなく世界規模での統合を実現しながら世界平和の実現に向けて機能しうるような法的体制とは、いったいどのようなものであるのかを探究することとする。こうした探究を通じて、アクチュアルな議論の不備を補い、地域共同体に理論的正統性を与えるとともに、地域共同体相互の関係および地域共同体と国連の関係も明確なものとし、こうした営為によって探究そのものの現代的意義を明らかにする。この探究を含め、本研究全体の妥当性を広く世に問うため、ルッツ=バッハマンおよびマルクス・ヴィラシェクを招へいし、大阪哲学ゼミナールおよび各種講演会、コロキウムを開催するとともに、国内から若手研究者を数名招いて公開討論会(大阪大学、12月)を行う。若手研究者が参加することによって、今後もこの領域の研究が継続され、本研究の成果として提案される第三の選択肢の理論的有効性が検証され続けていく可能性が。広く開かれることになる。
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Causes of Carryover |
参加者の日程調整がうまくいかなかったため、予定していた若手研究会を開催できず、次年度使用額が生じた。2019年度については、すでに日程調整済みのため、予定通りに研究会を開催し、当該使用額を使用する。
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Research Products
(9 results)