2020 Fiscal Year Research-status Report
Leibniz's Ontology: biology, time and economy
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17K02169
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
松田 毅 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (70222304)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ライプニッツライプニッツ / 存在論 / 生物 / 時間 / 経済 |
Outline of Annual Research Achievements |
ライプニッツの存在論の研究を行い、その歴史的文脈の解明と関係主義的解釈を試みた。一般書の執筆であるが、『夢と虹の存在論――身体・時間・現実を生きる』では、特に身体と時間の章を中心に、近世哲学の文脈とその現代的解釈として、アナクサゴラス由来の「ペリクオーレシス」の概念史、予定調和に尽きない因果性、世界内の事象の複雑性、ニュートン物理学の数学的時間とは区別される現実的時間など、今回の科研も含め、これまでの研究成果を踏み込んだかたちで取り入れ、公にすることができた。また、同書の最後の章では、査読論文で詳細に論じた内容を、さらに「現実」の存在論のかたちでライプニッツ「現実世界の唯一性」の問題系として位置づけ、フッサールやマルクス・ガブリエルと対比するかたちで論じ、ライプニッツの場合、現実存在と「エネルゲイア」の強い連関があることも述べることができた。 代表者が共編者の一人として企画、編集した“The Gradation of the Causation and the Responsibility focusing on “Omission””は、生命と環境に関わる科学技術のリスク論の観点から、「経済活動」や技術開発のリスク評価・管理に関連する「不作為」の現代的問題を念頭に、科学哲学の因果性の「多元論」と法哲学の責任の「階層」存在論を位置づけたものであるが、その議論に「弁神論」や経済と関連する、ライプニッツの存在論が裏打ちされている点も示すことができた。 執筆依頼のあった雑誌『現代思想』の特集号では南方熊楠の存在論が想像以上に、代表者が解明してきた、ライプニッツの関係主義的存在論と親和的な点も示した。このほか、依頼のあった、時間・空間論に関する『世界哲学史』のコラムやライプニッツの「啓蒙」概念に関する辞典項目の分担執筆なども行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、ライプニッツ哲学、特に、生物哲学、時間論、経済思想に着目し、内外の研究の歴史と現況を踏まえ、その存在論的諸問題を解釈・解明することを目的としている。生物的存在の存在論的解釈から始め、「時間論」の「進化」思想的展開となお未開拓にとどまる「経済思想」を焦点に、ライプニッツの「モナドロジー」の存在論の歴史的文脈を解きほぐすと同時に、 その現代的可能性を解釈することを課題とする計画であった。 この射程で見た時、今年度は代表者のこれまでの研究成果も活かし、存在論の単著を完成したほか、ライプニッツ的関係主義の存在論の現代的深化のひとつのかたちとして、因果性と責任に関する英語論文も公刊することができた。また新型コロナウイルス感染症と流行に注目した二つの学会からの報告依頼があり、ライプニッツの「水力-空気-火力の機械」に関する生物哲学研究の延長線上で疫病を念頭においた、疾病の存在論と公衆衛生の倫理学に関する報告を行い、その成果も活かした論文も執筆できた。これは予想されなかった事態であった。 また、課題であった「不可識別者同一の原理」と「微小表象」説の連関についても「生物次元の時間」の個体性と関係性を探究し、身体の疾病を含む「受容性affectus」の存在論と「世界の二重表象説」として展開することができた。さらに執筆依頼のあった雑誌での論考を通して、ライプニッツの関係主義的存在論と南方熊楠の「曼荼羅」的存在論の親近性を示すことができるという成果もあった。 やむを得ないことであったが、コロナウイルス感染症の影響で内外の調査、国際学会での発表、海外研究者の招聘などは延期ないし中止となったので、研究交流や討議の面では物足りなさが残る。この点は、後述のような2021年度に予定されている学会報告を活用する仕方で進めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、オンラインに変更されて開催される6月のメキシコでの国際学会、IV CONGRESO IBEROAMERICANO LEIBNIZ 2021での報告(“Origins” of time in Leibniz from his letters to De Volder)と企画と講演依頼のあった、12月5日に開催予定の西日本哲学会でのシンポジウムを利用して研究成果を報告し、その後、論文として発表することを目指す。特に、それらを契機として、当初、研究計画にあった、ライプニッツの研究史の整理と評価も行う予定である。 前者では、時間に関する「連続体合成の迷宮」について、デ・フォルダー書簡に見られる「全体が部分をeminentに含む」とされる「時間のメレオロジー」の存在論を踏み込んで追究する。その存在論と自然神学の深層を、用語法や概念史の観点からデカルト、スピノザからスアレスやスコトスに遡る、後期スコラ哲学およびライプニッツと親交の深かったファン・ヘルモント(息子)やコンウエイの生物哲学や時間論との関わりも含め研究を深めたい。 後者では、「モナド」の生物存在論的検討を行う予定であるが、第二次世界大戦後の多様なライプニッツ研究の総括も含め、代表者のライプニッツ研究のプロジェクトであった「メレオロジーとオントロジー」、「生物学と生命の哲学の研究」に関する成果も再考しながら、「モナド」の存在論的個体性と関係性を探究する。上記シンポジウムの提題者にはホワイトヘッド研究者も決まっており、関係主義的の存在論について公開の討論を行うよい機会となると期待される。 「モナド」の存在論を起点にした研究成果を「ライプニッツの存在論」をまとめたい。この段階で可能ならば、重要な未邦訳の文献の邦訳も開始したい。
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Causes of Carryover |
2020年度は、やむをえないことであったが、コロナウイルス感染症の影響で内外の調査、国際学会での発表、海外研究者の招聘などは延期、中止となり、その支出が困難であった。同様の理由で海外からの招聘者などは未定であり、海外での研究報告での支出も予定しにくい状況であるが、可能な限り、実現したい。
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Research Products
(10 results)