2017 Fiscal Year Research-status Report
Ethics in terms of reproduction: based on gender, body and Other
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17K02170
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
中 真生 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (00401159)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 生殖 / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究の主な目的は、欧米及び日本のフェミニズム思想における「生殖」及び「母性」の研究を、双方の思想の相違点、近接点を明らかにしながら推し進めることであった。まず、欧米のフェミニズム思想に関する研究としては、フランス思想を手がかりに「母性」について再考する研究を行い、2017年9月に行われた日仏哲学会大会シンポジウムで提題し、(「「産む性」をめぐって―生殖と「母性」再考」)、他の提題者や参加者たちと意見交換を行った。 次に日本のフェミニズム思想に関する研究としては、「母性」を軸に日本の近代フェミニズム思想を考察した論文(”Some Glimpses at Japanese Feminist Philosophy: In terms of Reproduction and Motherhood”)を執筆し、2018年に刊行予定の論文集に寄稿した。また、この研究の要点をストックホルム大学で行われたセミナー,”Feminist Phenomenology: Perspectives from Japan” (2017年6月12日)で発表し、北欧研究者との間で意見交換を行った。さらには、日本を中心とした育児放棄と新生児養子の問題と課題を、とくに「赤ちゃんポスト」に焦点を当てて考察した発表を(”Alternatives to terminating the life of a baby or a fetus: From "Baby Post" to Pregnancy conflict counseling”)、国際シンポジウム・ワークショップで行い、オックスフォード大学のウルフ教授や日本の参加者と意見交換を行った. このように、本年度は第一に、「母性」についての批判的考察を、とくにフランス、日本思想を中心に集中的に進めることができた。第二に、これまで妊娠前後が中心だった研究対象を、出産後の新生児と養育者の関係、養子の問題にまで広げることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生殖をジェンダー、身体、他者の観点から検討する本研究の理論的研究には、「母性」について検討が不可欠であるが、本年度は、その「母性」に関する研究を大きく進めることができた。そのひとつは、日本のフェミニズム思想を母性の観点から検討する研究である。もうひとつは、フランス思想を手がかりに、「母性」について批判的に検討しつつも、問題を修正した上で肯定的意義をとり出す可能性を検討した研究である。 その分、二つ目の目標であった「生殖と男性」に関する研究については、表立ったかたちでは成果を残すことができなかったが、「母性」の問題の検討を通じて、ジェンダーによる偏りや、生殖への身体的・情緒的かかわりの共通点や相違点を浮かび上がらせることができた。これは次年度以降の、男性に焦点を当てた研究、ひいてはより総合的な、生殖とジェンダーの研究に存分に生かされるはずである。 また、1月に行われた国際シンポジウム・ワークショップでの発表では、新たに赤ちゃんポストの問題を主題として扱うことによって、育児放棄の問題、新生児養子の問題にも対象を広げることができた。さらに同発表では、イギリスの出生前診断の現状や、診断で胎児の障害が分かった上で出産した家族や子どもへの支援についても触れることができ、生殖技術の問題にも対象を広げることができた。次年度以降は、まだ本研究のうちでは、着手したばかりのこれらの研究を掘り下げ、最終的に、広義の生殖に関する総合的研究へと結実させたい。実践的研究についてはあまり進めることができなかったが、他の研究者の文献研究を通じた研究は行っているので、今後、とくに後半の期間に集中的に実施したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、本年度、フランス、日本思想を中心に推進することのできた「母性」についての研究を、アメリカを中心とする英語圏に広げる。そして、「母性」についてのこれまでの研究の成果をまとめて、学術雑誌から依頼されている論文として仕上げるとともに、英語で書いたものを国際学会で発表する。それと同時に、「生殖と男性」の研究を進める。本年度は、生殖と男性の研究は、表立った形では成果に現れていないものの、フランスや日本における「母性」や育児の研究をする中で、ジェンダーによる偏りや差異の問題を浮かび上がらせることができたので、次年度以降は、生殖と男性の研究を進めるとともに、これまでの「母性」に関する研究と総合し、生殖におけるジェンダーの問題をより本格的に検討する。また、本年度の最後に着手することのできた、新生児と両親の関係や、新生児養子に関する研究をさらに展開し、養育一般に関する研究にまで広げていく。 また次年度は、生殖医療に関する研究の進んだ、オックスフォード大学ウエヒロプラクティカルエティックセンターに10か月滞在するので、この機会を利用して、生殖に関するセミナーに出席したり、研究発表をしたり、近接するテーマを研究する研究者と意見交換をするなどして研究を進める予定である。インタビューなどの実践的研究に関しては、英国滞在中は実施することは難しいと思われるが、実践的研究を積極的に行っている研究者が同センターや他のセンターに多数在籍しているので、論文を読んだり話を聞くことを通して、アイディアを得たり、優れた点や日本との相違について学びたい。
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Causes of Carryover |
本年度は本研究初年度として、パソコンやデジタルペーパー、また多くの関連書籍を購入する必要があり、それらについては概ね当初の予定通り予算を執行した。ただ洋書の一部については、本年度後半から次年度へと及ぶ長期的な研究に関わるため、書籍の発注が年度終了前後の時期に集中することになった。このため、これらの洋書に関しては次年度の予算で購入することに計画を変更した。さらに予定していた海外出張に関しても、他のプロジェクトでの出張があり、日程の都合で次年度以降に見合わせた経緯がある。 次年度は複数の国際学会での学会発表を予定している。このため多くの海外旅費が必要と見込まれる。さらには、英語やフランス語の書籍を現地で多数購入する予定であるのに加え、研究拠点を移動するに当たり、パソコン関連の諸機器の購入費や、多数の書籍の運搬費も余分に確保する必要がある。そこで、主に、当初の次年度の予算では賄いきれない旅費や環境を整えるための費用、さらには、当初の計画になく、現地に赴いていから必要が生じる研究会への出席等、予定外の出費に、本年度から次年度へと繰り越した助成金を使用する計画である。
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[Book] 哲学すること2017
Author(s)
中 真生(共著者)
Total Pages
704
Publisher
中央公論社
ISBN
978-4-12-005028-2